sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Cupid & Psyche 85」 Scritti Politti(1985)

わたしが中学後半~高校時代ヘビロテ状態で聴いていたのがスタイル・カウンシルスクリッティ・ポリッティであった。どちらもR&B(←当時はソウルと呼ぶことが多かったと思う)テイストの洗練UKポップという共通項があり両方好きという人は結構多かったんじゃないだろうか。ソウルやファンクを取り入れたUKポップというと何と言ってもワム!カルチャー・クラブが有名だがいかんせんメジャーすぎるし政治的発言の多いスタカンやスクリッティのほうが当時の地方都市のいち女子高生の似非スノッブ趣味にアピールするものであった。まあスクリッティの場合当時のわたしが最も夢中になったのはグリーン・ガートサイドのゴージャスなルックスだったのだけど(笑)、元々興味を持ったきっかけは当時某FM番組(NHKかFM東京かも覚えていない)でヴァージン・レーベル所属アーティスト特集の最後にかかった「Absolute」であった。その恐ろしく洗練されたメタリック(←ヘビメタ的ではなく金属的な、という意味)な感触のシンセサイザーにグリーンの浮遊感漂うハイトーンヴォーカル、そしてスイートでキャッチーなメロディーはそれまで聴いていた音楽とは別次元の世界のものに思えた(←大げさかもしれないが中学生の感性というのは実に単純なものである)。ちなみにわたしのウェールズびいきは元々グリーンの出身地であるということに影響されている。スクリッティ自体はウェールズというより(グリーンが通ったアートカレッジのあった)イングランドのリーズ出身のバンドとして語られることが多いがグリーンという名前が地元サウス・ウェールズの緑広がる光景にインスパイアされたものであること、スクリッティのデビュー後も度々ウェールズに戻っていたことを考えるとやはりグリーンを語る上でウェールズは無視できないものではないだろうか。 

Cupid & Psyche 85

Cupid & Psyche 85

 

現在はスクリッティの名盤というとファーストの「Songs to Remember」を挙げる人が多いし、わたしも非常に優れたアルバムだと思うがリアルタイムで聴いた「Cupid & Psyche 85」(以下C&P85)の鮮烈な印象はやはり何物にも代えがたい。最初に聴いた「Absolute」と同じく、スイートでありながら硬質でメタリックなキラキラ感あふれる楽曲がアルバムの大半を占めている。スクリッティはもともとパンクに触発されて始めたバンドだし、その前からグリーンは地元ウェールズで共産党青年部で活動していたぐらいのかなり過激な政治的思想の持ち主なのだが、C&P85においてはそのような政治的な主張は一切感じられない(←グリーンが意識的に除外していたようである)。裏雑記では「(グリーンは)「脱構築」を提唱するデリダの信奉者であることを公言していただけに黒人音楽という「制度」にはまることによって生じる矛盾は痛い」などと貶してしまったがだからと言ってこのC&P85がダメなアルバムというわけでは全然ない。確かにこのアルバムをもってスクリッティを定義するのは危険(それは「パークライフ」をもってブラーを定義するようなものだ)だし、今聴き返すと古臭いというかやはり当時の流行の音作りに支配されすぎている。しかしそういった欠点を補って余りあるグリーンの艶やかで華麗なヴォーカルはやはりいつ聴いても魅力的だ。収録曲の中ではやはり先行シングルの「Wood Beez」「Absolute」「Hypnotize」が傑出しているが個人的お気に入りはソウルフルなバラードの「A Little Knowledge」。