sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Pyromania」Def Leppard(1983)

デフ・レパードは今ではNWOBHMNew Wave of British Heavy Metal)の代表格のように言われているがデビュー当時からアメリカ市場を意識しているようなところがあった。なんてったって「Hello America」なんてベタな名前の曲があるんである。そのせいか他のNWOBHMバンドに比べてキャッチーなメロディーとコーラスが多用された、いかにもアメリカ人好みの曲が多い印象だ。おまけにメンバーのルックスが無駄にレベルが高いせいでコアなHR/HMファンだけでなく日頃「ロック・ショウ」(注:80年代に存在した洋楽系アイドル雑誌)を愛読しているような女の子たちにもアピールするに十分であった。かくいうわたしもその一人であって、なぜか当時「Too Shy」で一世を風靡していたカジャグーグーと一緒に「Pyromania」をヘビロテしていた(笑)イギリスのバンドであるという以外何の接点もないな。ミーハーパワーの前にはジャンルの違いなど全く意味がないという例である。

Pyromania

Pyromania

 

 わたしがリアルタイムで聴きだしたデフ・レパードのアルバムが3rdアルバムの「Pyromania」である。当時の邦題は「炎のターゲット」だったが、アルバムジャケットのイメージそのままでありながらHR/HMならではのアグレッシブさとスマートさが凝縮された秀逸なタイトルであると思う。元ガールのフィル・コリンを新メンバーに加え、本格的に全米マーケットを制覇しようという意気込みがアルバム全体から伝わってくる。収録曲も粒ぞろいで、代表曲の「Photograph」の冒頭からサビに至るまでの展開は神がかり的だし、その次の「Stagefright」のたたみかけるような疾走感にはただただ圧倒されるばかりだ。もちろんNWOBHM出身ならではの英国特有の抒情性は保たれていて、そこがアメリカ市場における彼らの個性となっていたのではないかと思う。しかしその次の「Hysteria」はあまりにメジャーすぎてしまい、却って初期の、よりブリティッシュ色の濃い2作(「On Through the Night」「High 'n' Dry」)のほうにより惹かれてしまうのはやはりひねくれ者なのだろうか。大体デフ・レパードのアルバムのプロデューサーであるジョン・マット・ランジはあのフォリナーの「4」のプロデューサーでもあって、フォリナーの「Juke Box Hero」などを聴く度に「なんかこれデフ・レパードっぽいんだよな」と思ってしまう。その辺がデフ・レパードの立ち位置を曖昧にしているように思えるが、多分本人たちにとっては自分たちはどこにも属さない「唯一無二のデフ・レパード」であることが一番の理想なんだろうと思う。