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sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「200 Km/H in the Wrong Lane」t.A.T.u.(2002)

高校時代、なぜかモスクワ放送を聴くことがわたしの周りで流行っていた。当時、ウラジオストクに中継局があったせいかAMラジオでもかなりクリアに聞き取れたのである。旧ソ連時代の放送なのでアメリカの悪口ばかり言っているプロパガンダ的なニュース解説がほとんどだったのだが、時折流れる当時のロシアンポップスにはなかなか魅力的な曲が多かった。ウラジミール・クズミンの「Моя любовь」やソフィヤ・ロタールの「Было, но прошло」などがヒットしてた頃である(今はYouTubeで見れるいい時代だ)。これらロシアンポップスに共通する哀愁漂うメロディーはやはりお国柄なんだろうか、ニュースはともかく異国情緒をかき立てるこれらの音楽には惹かれるものがあった。

t.A.T.u.は「All the Things She Said」の全世界的大ヒットで知られるロシアの女性デュオである。わたしがこの曲のPVを見たときに即思ったのは「これは女マニックスなんじゃないだろうか」ということだ。ツンツンの黒髪のユーリャはリッチーみたいだし、彼女に寄り添う赤毛のリェーナはニッキーを彷彿とさせる。大体パンク少女キャラと文学少女キャラの組み合わせがまんま映画「Times Square」のニッキーとパメラみたいだしその映画中で歌われる「Damn Dog」はマニックスもカヴァーしている。大体「All the Things She Said」のPVにおける2人のいちゃつき方がまんま「You Love Us」とか「Love's Sweet Exile」みたいじゃないだろうか。初期マニックスにも共通する、パンクでグラマラスでちょっぴりダークというのがt.A.T.u.の魅力なんだと思う。ロシアの女性パンクバンドと言うと今はプッシー・ライオットのほうが有名なんだろうがこの人たちいつも覆面だししかも素顔もイマイチなんだもん。

200 Km/H in the Wrong Lane

200 Km/H in the Wrong Lane

 

 「200 Km/H in the Wrong Lane」はその「All the Things She Said」が収録されているt.A.T.u.のデビューアルバムである。ちなみに原語版と英語版があり英語版のほうはかのトレヴァー・ホーンのプロデュースである。「英語の歌詞指導しかしてない」という説もあるがこの曲におけるゴージャスでありながら物悲しく頽廃的な世界観はトレヴァー・ホーンの大仰でドラマティックな音作りが醸し出すそれと共通する。とはいえこのアルバムに収録されている曲はどれも非常に洗練された音作りではあるものの、基本的にはかつてモスクワ放送で流れていたロシアンポップスの流れを汲むものだ。特に原語曲はロシア語独特の「イェー」という語尾がますます「あーロシアだな(笑)」という気持ちになるのだがそれゆえ過度に米英ポップスの型にはまることなくt.A.T.u.ならではの個性が際立っている。特に高音を張り上げるようなユーリャのヴォーカルには刹那的に生きる少女の叫びのような響きすら感じられる。狙いすぎなキャラ作りやスキャンダラスな言動ばかりが注目されてきたt.A.T.u.だが、あまりに儚い少女期の切ない想いを余すことなく表現しきったこのアルバムは確かに時代を超える傑作と言っていいと思う。ザ・スミスのカヴァー「How Soon Is Now?」も秀逸。