sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「The Raven That Refused to Sing (And Other Stories)」 Steven Wilson(2013)

最近のスティーヴン・ウィルソンはソロ活動が充実しすぎていて、ポーキュパイン・トゥリーを再始動させる予定は今のところ全くないのらしい。「The Incident」から既に5年経過しているから、長年のファンは不安だと思う。でも「Loveless」から「mbv」まで22年かかっているマイ・ブラッディ・バレンタインみたいな例もあるからな。そんな極端な例を出されても困るだけかもしれんけど。
スティーヴン・ウィルソンという人は物凄く才能があるのは確かなんだが、日本で今一つブレイクしないのは無駄に器用すぎるというかいい意味での胡散臭さがないからなんだろう。第一名前がフツーすぎる。70年代ミュージシャンなら間違いなく芸名にしただろう。デヴィッド・ジョーンズ(=デヴィッド・ボウイ)レベルのフツーさだもん。ルックスも決して悪くはないが地味だしな。往年のプログレバンドのフロントマンがみんなそれぞれにキャラが濃いのと対照的だ。まあこの辺が今風なのかもしれないけど、ルックス的にキャラの立っているアーティストが受けやすい日本においては色々ともったいない気がする。似てるとよく言われるゲディ・リーだってもうちょっと見かけにインパクトあるぞ。

The Raven That Refused To Sing

The Raven That Refused To Sing

 

 「The Raven That Refused to Sing (And Other Stories)」はスティーヴンのソロ3作目である。まずジャケットのアートワークが適当過ぎて笑う。まるで小学生が描いた万博公園太陽の塔のてっぺんのアンテナだ。しかし中身は恐ろしくレベルが高い。これだけ完成度の高いアルバムを聴いたのは久しぶりである。何と言ってもアルバム冒頭の「Luminol」のオープニングのベースが衝撃的だ。この最初の数秒だけでこの曲が傑作であることが確信できる。このベースを弾いているのが前回紹介したカジャグーグーのニック・ベッグスである。某プログレ誌の人気投票で何故ニックがゲディ・リーとクリス・スクワイアに匹敵する票を集めたのかこのアルバムを聴けば充分納得だ。というかこのアルバムでのニックのベースプレイ自体がゲディ・リーやクリス・スクワイアに似すぎているのである。このアルバムはピンク・フロイドやクリムゾンやジェネシスやイエスなどいわゆる70年代プログレのエッセンスをふんだんに盛り込んだアルバムらしいんだが、この辺のバンドをろくろく聴きこんでいるわけでもないわたしでさえ「Watchmaker」のインストパートを聴いて「なんだこのラッシュみたいな曲は」と盛り上がれるのだから70年代英国プログレのファンはさらに感涙モノじゃないだろうか。もちろんそんな予備知識がなくても充分楽しめるアルバムなんだが、70年代をリアルで経験している人は「あまちゃん」(←マニアックな80年代ネタ満載でその世代に大ウケした人気朝ドラ)状態でなおさらおいしいだろう。でもよくよく考えてみるとスティーヴン・ウィルソンは1967年生まれで世代的にこの辺のプログレ全盛期はリアルタイムじゃないと思うのに何でここまで70年代プログレに造詣が深いんだろうか。まあ「オアシスだってビートルズはリアルタイムじゃないじゃん」と言われればそれまでなんだけどさ。