sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Angel Dust」Faith No More(1992)

90年代初頭のアメリカのオルタナ/グランジ/ミクスチャーバンドの台頭は今から考えると凄まじい充実ぶりで当時のメディアは全部くまなくフォローするのは大変だったと思う。しかし私の記憶では日本でこの系のバンドを熱心にフォローしていた雑誌は「クロスビート」ぐらいでロッキングオンは同時期にイギリスでブームになっていたマッドチェスターやシューゲイザーバンドのほうに夢中だったしBurrn!は「こんなのメタルじゃない」と無視だった。一過性のブームぐらいに思って敢えて手を出さなかったのかもしれない。私も当時イギリスの新人バンドのほうを熱心に追っていたからこの辺のアメリカのオルタナ/グランジ/ミクスチャーバンドについては体系的な知識を持っていない。フェイス・ノー・モアともどうやって出会ったのかすらもう覚えていない。
フェイス・ノー・モアはレッチリことレッド・ホット・チリ・ペッパーズと並ぶミクスチャーロックの代表的なバンドである。基本的にはハードロックなのだがファンクの影響が大きいためにベースが大活躍するのがこのジャンルのいいところである。世間的にはレッチリのほうがメジャー人気があったようだが私は最初からフェイス・ノー・モア派であった。単にヴォーカリストの顔がアンソニーよりマイク・パットンのほうが好みだったから(笑)というのもあるがそれ以前にやたら裸の露出の多いレッチリの体育会系ノリが暑苦しくて受け入れられなかったというのもある。「マイク・パットンのステージパフォーマンスのほうがよっぽど変態でしょうが」というツッコミが入るかも知れんが私はそのパフォーマンスを実際見たことがないのでわかりませんとしか言いようがない。むしろマイク・パットンの変態さはその異常な多さのサイドプロジェクトに現れているんじゃないだろうか。フェイス・ノー・モアの他にMr.Bangleが有名だがWikipediaによれば他にもFantomas、Tomahawk、Lovage、Peeping Tom、Mondo Cane、Crudoなどとある。正直マイク・パットンの作品を全て揃えている人がいたらそれは相当のパットンマニアじゃないだろうか。マイク・パットンの凄さは業界屈指と言われる音域の広さもなのだがそれ以上に「1人何役やってるんですか?」という多才な表現力だろう。ただ金切り声で叫んでるのから地を這うように朗々と歌われる渋い低音ヴォーカルまで何でもありである。

 

Angel Dust by FAITH NO MORE (1992-06-16) 【並行輸入品】

Angel Dust by FAITH NO MORE (1992-06-16) 【並行輸入品】

 

 「Angel Dust」はフェイス・ノー・モアの通算4作目のアルバムで、一般的には彼らの最高傑作と言われているものである。大ヒット曲「Epic」が収録されている前作「The Real Thing」は当時マイク・パットンがハタチの学生だったということもあり歌もひたすら若い!可愛い!という感じなのだがこの「Angel Dust」ではパットンのマルチタレントぶりが本格的に開花しそのヴォーカルスタイルの変幻自在ぶりが存分に発揮されている。「Epic」のような突出したキラーチューンがない代わりにどの収録曲も異常な完成度の高さである。「The Real Thing」はファンクやラップをそのまま取り入れちゃいましたみたいな曲が多かったのだが「Angel Dust」ではそういった様々なジャンルの要素が上手く融合されてフェイス・ノー・モア独自のサウンドに昇華されている。1つ1つの楽曲が恐ろしいほどのエネルギーと集中力と緊迫感とスケールの大きさでもって聴く者を圧倒するのである。今聴いても20年以上前の作品とは思えないしダークで複雑怪奇な展開は今時のプログレッシブ・メタルに通じるものがある。本作があまりに圧倒的な内容だったせいか、次作「King for a Day... Fool for a Lifetime」以降で失速し1998年に解散してしまうのだが、今から思えば当時フェイス・ノー・モア名義でやるべきことはすべてやり尽くした感じだったんだろう。つい先日再結成して来日したり新作「Sol Invictus」をリリースしたと思ったらマイク・パットンがまたNevermenなる別プロジェクトを始めちゃってるしな。どんだけ落ち着かないんだよこの人。