sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Guiding Lights」Skyharbor(2014)

従来、米英ロックの世界において「インド」というと大体2種類のイメージがあった。1つはクーラ・シェイカーやインディアン・バイブス等「伝統的なインド音楽に影響されたサイケデリックなロック」である。もう1つはコーナーショップやタルヴィン・シンなどに代表されるインド系英国人ミュージシャンたちである。ちなみに80年代初頭に活躍したシーラ・チャンドラはこの両方である(最近英国で人気があるらしい「ボンベイ・バイシクル・クラブ」もその類かと思っていたが全然違っていた)。
Skyharborはそのどちらにも属していない。インド本国のニューデリーを拠点とするdjent/プログレッシブ・メタルバンドである。大体djentというジャンルというか演奏様式自体がインターネットのコミュニティーから発生したものなので他のジャンルに比べて地域性は希薄なのだが、彼らの曲から「インドっぽさ」を嗅ぎ取ることは正直難しいと思う。じゃあ一体どこ風なんだと言われても困るが、そんな無国籍な佇まいがどこか彼らの持つ浮遊感あふれる音楽性とマッチして、何ともつかみどころのない神秘的な雰囲気すら覚えるものだ。彼らはコーナーショップの連中とは違ってインドで育ったインド人なので、ことさら自分たちのルーツを主張する必要性を感じないんだろう(ヴォーカリストが英語で歌う米英人というのも関係がありそうだが)。しかしインドという国自体巨大な国だしそのうちインドのバンド達も米国における「シアトル系」「LAメタル」「シカゴ音響派」とか英国における「マッドチェスター」「ブリストル系」「スコティッシュポップ」のような地域性の差異を主張してくる可能性は大いにありそうだ。何と言っても特許庁が4つもある国だからな。ムンバイとコルカタとデリーとチェンナイじゃさぞかし住民の気質も音楽性も違うんだろう。 

Guiding Lights

Guiding Lights

 

 「Guiding Lights」はSkyharborの2枚目のアルバムである。前作「Blinding White Noise:Illusion & Chaos」も既に類型的な「djent」の枠を超えた独自性を発揮しまくっていたが本作では最早「メタル」の枠も超えてしまっている。私が初めてSkyharborを聴いたときの第一印象は「Oceansizeに似てるなあ…」というものだった。後にギターのKeshav Dharが「人生を変えた5枚のアルバム」の1つにOceansizeの「Effloresce」を挙げていたのを見てやはりと納得したものである。Oceansizeはプログレやメタルの影響も受けつつも、基本的にはオルタナティブ・ロックのカテゴリーで語られるバンドであったし、しかも本国でも決してメジャーに売れていたバンドではなかったから、「Keshavは一体どこでOceansizeを知ったんだろう?」と気になって仕方がない。普段メタルを中心に聴いている人が本作においてピンとこない部分があるとしたら、それは多分Skyharborの音楽が内包する「非メタル」の部分なんだろう。ラウドでノイジーなのに浮遊感があって茫洋としたスケールを感じさせるギターというのは前作と共通だが本作はdjentをベースにしつつも曲によってはシューゲイザー/ドリームポップ的な要素もあればアンビエントな要素もあり、さらにはクラブ系音楽のニュアンスも聴きとることができる。「一体どこに連れて行かれるんだろう…」という不安と期待を同時に抱かせる複雑で予測不可能な展開に、まるで聴いている間は魔法にかかったような不思議な感覚に襲われること請け合いである。私が現TesseracTのダン・トンプキンスを知ったのも実はSkyharbor時代のが先なのだが、ここで聴かれるヴォーカルスタイルはTesseracTの「One」の時とは全然違ってより優しく甘美で妖艶ですらある。本作の幻想的で叙情的な音世界は彼の変幻自在の表現力豊かなヴォーカルによっているところが大きかっただけにSkyharbor脱退は残念だ(新ヴォーカリストのEric Emeryも実力は申し分ないので今後の活躍に期待したい)。
既に日本のdjent好きには高い評価を受けているSkyharborだが、本作は普段メタルを全く聴かないという人にもぜひ聴いてもらいたいアルバムである。上述のOceansizeのファンはもちろん、例えば「Six」以降のMansunが好きだった人にも勧められると思う。しかしいかんせん日本盤が出ないことには認知度が上がらないのも事実。1stにゲスト参加したマーティ・フリードマンがラジオやTVで宣伝してくれれば日本盤を出してくれるかなぁ~。