sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Wings of Joy」Cranes(1991)

一般的に「ゴスロリ」は日本独自のサブカルチャーと言われているが、その起源をたどれば英国のゴシック文学や「不思議の国のアリス」に行きつくのだからイギリスにゴスロリ的なバンドがあってもおかしくはない。現在日本でも知名度のあるイギリスのゴスロリバンドはケイティ・ジェーン・ガーサイドを擁するクイーン・アドリーナだろう。しかし、ケイティがデイジー・チェインソーでUKインディーシーンの表舞台に登場する1992年より前に「ゴスロリ」的なバンドが既に存在していた。それが英国ポーツマス出身のクレインズ(Cranes)という、ジムとアリソンのショウ(Shaw)兄妹を中心とするバンドである。今でこそアナセマ(Anathema)のダグラス兄妹がいるが、兄弟バンドに比べると兄妹や姉弟という組み合わせのバンドはあまりいないんじゃないだろうか。このバンドも前回のコクトー・ツインズと同様、しばしばシューゲイザーのカテゴリーに入れられることが多いが、確かにシューゲイザー的なノイジーなギターが聞かれるものの、アリソンのヴォーカルが異常なほどの存在感を放っている点で、やっぱり他のシューゲイザーとはちょっと違う立ち位置にあったバンドじゃないかと思う。クイーン・アドリーナの「ゴスロリ」イメージはもっぱらケイティのルックスとキャラクターによっているところが大きいのに対し、クレインズの「ゴスロリ」性は主に音楽面に現れている。しかも「ロリータヴォイス」プラス「ゴシック・ロック」という単純足し合わせで笑ってしまうほどだ。しかしいざ曲を聴くとかなり不気味だ。以下に紹介する「Wings of Joy」は彼らの1stフルアルバム(1986年の「Fuse」はカセットオンリーなので除く)であり、ゴシック色の非常に強い作品である。

 

Wings of Joy

Wings of Joy

 

一般的にロリータヴォイスというとフレンチポップあたりの舌足らずでセクシーなウィスパーヴォイスみたいなのを想像する人も多いと思うが、このアルバムからはおよそロリータと聞いて想像される甘さやポップさは一切排除されている。ダークで憂鬱なメロディーで歌われるアリソンの幼女のような無垢なヴォーカルに重々しくのしかかるノイジーで凶暴なギターを聴くとまるで幼女監禁のような禍々しい雰囲気が漂っていて聴く時間帯を選ばないと夜にうなされそうだ。しかし密室的でどこか頽廃的な空気すら漂う幻想的な音世界は中毒性があり、怖い怖いといいつつ何度もリピートせずにはいられない魔性を秘めていると思う。
およそポップとは言い難い音楽性からか、それとも当時あまり本人たちが積極的にメディアに出たがらなかったからか、同時代にデビューしたシューゲイザーバンドたちが青田買い的に次々と日本の洋楽雑誌で取り上げられていたのに対し、クレインズはこの時期日本の洋楽誌に載ることはほとんどなかったと記憶している。私が彼らの存在を知ったのは英メロディー・メイカー誌の付録CD「Gigantic 2」というコンピレーションアルバムで、他の収録バンドもラッシュ(Lush)、ペイル・セインツ、コクトー・ツインズシュガーキューブスとなかなかに豪華だったのだが中でも一番印象に残ったのがこのクレインズだった(その次のバードランドの曲は期待外れだった(笑))のである。この時期にリリースされた作品はアルバム、EP含めジャケットデザインがいかにもゴシック的で美しくジャケ買いしたくなるものばかりだった。本作ではシングルにもなっている「Tomorrow's Tears」と最後の「Adoration」がメロディーがはっきりしていて聴きやすいと思う。
ちなみにCranesというバンド名、その幻想的で耽美な音楽性からきっと「鶴(crane)からとったんだろうと思ったら実は彼らの地元ポーツマスの港に林立するクレーン機(crane)からとったのらしい。夢もへったくれもない話だな。よって本当は「クレーンズ」と書くのが正しいんだろうけど、それじゃまるでインダストリアル系みたいだしやっぱり彼らのイメージにそぐわないよ。