sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この1曲】The Anchoress 「Popular」(2015)

スティーヴン・ウィルソン、アナセマ、テッセラクトと巷のプログレッシブな英国ロックファンのハート(となけなしの財産)をがっちりつかむことにかけて天才的な手腕を発揮し続けるKscopeが今回新たに送り出すのがThe Anchoressなる、ウェールズ出身のCatherine Anne Daviesのプロジェクトである。彼女はシンプル・マインズのツアーメンバーとしても知られているが、おそらく日本のUKロックファンには「マンサンのポール・ドレイパーがプロデュースした女性シンガー」と言ったほうがより通りがいいかもしれない。何しろポール自身がここ数ヶ月もの間Facebookツイッター他各種SNSを駆使してThe Anchoressを宣伝しまくっていたからな。おかげで数年前から出る出るぞと言われているポールのソロアルバムのほうはすっかりマンサンファンの間でも狼少年扱いで今や誰も話題にしていない。
Catherineは何種類もの楽器をこなすマルチミュージシャンであるだけでなく何とロンドン大学ユニバーシティ・カレッジで英文学の博士号を取得しているとんでもない才女である。やはりマルチぶり(と清々しいまでのオタクっぷり)で日本のdjent界隈で絶大な人気を誇るSithu Ayeもセント・アンドリュース大の物理学修士だし最近の若手ミュージシャンは無駄に高学歴過ぎて笑うしかない。昔はマニックスのリッチーやニッキーが大卒ってだけで「ちゃんと卒業したんだスゲー」って思ったもんな。今は専業ミュージシャンとして生計を立てるのは大変な時代なようで、やはり別に副業をしようと思ったらそれなりの学歴が必要なんだろう。本当に世知辛い世の中である。

この「Popular」はThe Anchoressの来年1月リリース予定のデビューアルバム「Confessions of a Romance Novelist」からの先行シングルである。ポール・ドレイパーのプロデュースということで確かに音作りのところどころにマンサンっぽさを嗅ぎ取ることは可能だが、それ以上にCatherineという名前といい深窓の文学少女風なイメージといいやはりケイト・ブッシュと比較したくなる。英国には時々こういうお嬢の空気をまとった女性シンガーが現れるが、この人も随所にフェミニズムっぽい思想を感じるとはいえ見かけは今時清々しいまでの古風なインテリお嬢である。ただ、「Dreaming」あたりのケイト・ブッシュの狂気一歩手前のアーティスティックな情念と比較すると、どうしても経歴ゆえのアカデミックな理性のフィルターを感じてしまうしそこが現代的ともいえるし物足りないとも言える。Kscope関連で言うとやはり女性ヴォーカルということでiamthemorningやSe Delanあたりと近いところがあると思うが、よりポップで聴きやすいと思う。
その経緯から今のところマンサンの名前を出して語られることの多いThe Anchoressだが、同じウェールズ出身だしHall Or Nothingのマネジメントということでそのうちマニックスとの共演もあるかもしれん。何を隠そうこのCatherine自身がマニックスの大ファンで元々マニックスの影響で読書に親しみアカデミックな道を選んだのらしい。私の周りのマニックスファンもやたらと高学歴女性が多いんだが何故なんだろうか。三流私大卒の自分にはさっぱり理解不能である。
「なんであんたはそうやってすぐ話をマニックスに持って行くんだよ」といいたい人もいると思うが名前からしてそういう趣旨のブログなのだからしょうがないじゃん。