sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Celebrity Skin」Hole(1998)

コートニー・ラブはホール(Hole)のヴォーカリストであり、また故カート・コバーンの妻として洋楽ファンにはよく知られている存在だが、今やお騒がせセレブとして芸能メディアにもしょっちゅう登場するし椎名林檎の曲の歌詞にも出てくるしヒステリックグラマーからコラボTシャツも出してるし日頃洋楽を熱心に聴かない人たちにも何となく名前は知ってるぐらいの知名度はある人だと思う。カートおよびニルヴァーナの熱心なファンからはどう思われているか知らんがそれ以外の人たちには「ぶっ飛んでるロック姐ちゃん」として何となくライトに憧れられてるふしがある。特に日本で若い女の子に人気があるのは、コートニー自身が日本的な「カワイイもの」や「ガーリーなもの」が好きなのと、ビッチイメージの割に女性が反感を覚えるタイプの「セクシー」という感じじゃないからなんだろう。大体デカいし骨太だし声も低い濁声で見ようによっては何だかニューハーフみたいだしな。良く言えば「媚び」がないということなんだろう。またデビュー当時からフェミニズムに敏感で来日時のインタビューでも女性記者に「あなたが記事を書くのなら応援するわ」と非常に協力的だったという逸話もあり、そんな「女性の味方」みたいなところも若い女性から支持される要因だと思われる。
世間一般的にはカートと結婚したことで知名度を上げたと見られているコートニーだが、それ以前からも彼女はオルタナ/インディー系ロックの世界では有名な存在であった。コートニーおよびホールに注目したのは本国よりイギリスのメディアのほうが先だったと記憶している。彼女が80年代英国ロックのファンで、特にエコー&ザ・バニーメンや(ジュリアン・コープで知られる)ティアドロップ・エクスプローズの追っかけをしていたエピソードも割と早くから知られていた。デビュー作「Pretty on the Inside」(1991)もソニック・ユースのキム・ゴードンのプロデュースということで話題を呼んだ(ロッキング・オンでは揶揄気味にディスられていたけどな)。しかしホールがグランジや、90年代初頭の「Riot Grrrl」に代表される女性バンドブームの範疇にとどまるバンドではないことを証明したのは今回紹介する3rdアルバムの「Celebrity Skin」である。

Celebrity Skin

Celebrity Skin

 

 ロック批評やファンの間では前作の「Live Through This」(1994)のほうが評価が高いと思うが本作「Celebrity Skin」のほうがよりポップでキャッチーなメロディーを持った曲が多くグランジはさほど聴かないという層にも充分アピールした作品である(全米9位)。作曲その他制作のかなりの部分でスマッシング・パンプキンズビリー・コーガンが関わっているため、曲の随所にメロディアスでメランコリックなスマパン節がみられるのがスマパン好きとしてはうれしい部分である。グランジ特有のノイジーでどこか投げやりな荒っぽさを残しながらも往年のハードロックのエッセンスを取り入れた、曲の一つ一つが非常にタイトな作りの、まるで古典の風格さえ漂う真っ向勝負の堂々としたロック・アルバムである。とにかく1曲目のタイトル曲「Celebrity Skin」の最初の5秒の鋭いカッターのようなイントロを聴いただけで「カッコいい!」と思ってしまう。この時期コートニーは映画「ラリー・フリント」での高評価により女優としての名声も得て対外的にも内面的にも非常に充実していており、全体的にポジティブなエネルギーが感じられるアルバムである。デビュー当時には「まるで女ホームレス」とも揶揄されたグランジ女だったコートニーがハリウッド女優然とした洗練された美貌を誇っていたのもこの時期だ。しかしこのまま「勝ち組セレブ」の人生を順調に歩む道もあっただろうにそうはならないところがコートニーであって、カートの肖像権をめぐってニルヴァーナのメンバーたちと訴訟を起こしたり肝心のホールも解散、再び薬物中毒に陥ったりその他様々な奇行により実の娘の養育権まで取り上げられる始末である。2010年に再結成し4th「Nobody's Daughter」をリリースしたもののその後のアルバムリリースの予定は不明である。個人的には(本人の事情があるとはいえ)カートみたく若くてカッコいいままで命を絶つよりもビリー・コーガンコートニー・ラブアクセル・ローズみたく年取って容姿も声も劣化してメディアやファンから叩かれてもしたたかに生き続ける人たちにリアルを感じるし共感を覚えるのだが、それもコンスタントに新作を出してツアーしてなんぼだから最近の彼女の名前を見るのがゴシップ記事ばかりで肝心の音楽活動がバンドなのかソロなのかそもそも本業は音楽なのか女優なのかよくわからないのはもうちょっと何とかならないのかとも思ってしまう。まあそんなどうしようもないところも含めてコートニーだから、ファンは全く気にならないんだろうけどね。