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sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Polaris」TesseracT(2015)

以前の記事にも書いたとおりテッセラクト(TesseracT)は元々ペリフェリーと共にdjentというプログレッシヴ・メタルの周辺ジャンルのシーンを牽引してきた存在であるが、その発生経緯から基本的にdjentには地域性はないと考えられるにもかかわらずなぜかテッセラクトにはプログレNWOBHMからニューウェイヴそしてブリットポップまでジャンル関係なく英国出身バンドに共通する独特の憂愁と叙情性が感じられそこがdjent界における彼らの個性となっている部分じゃないかと思う。テッセラクトプログレッシヴな点は各パートがそれぞれに超絶技巧を披露するのではなく、逆に各パートが一丸となってまるで目の前に音の立方体が浮かんでくるような独特の音空間を構築する鉄壁のアンサンブルにあると言われている。楽器隊のアンサンブルが完璧すぎるのでヴォーカルはまるでオマケ扱いで実際これまでにアルバムを出すごとにヴォーカルが交替している。現在のヴォーカルは1st「One」の時と同じダニエル・トンプキンスだが、続く2nd「Altered State」ではアッシュ(Ashe O’Hara)がヴォーカルで、このアルバムがdjentの枠を超えて新世代プログレッシヴ・メタルの金字塔的作品としてメディアやファンから高い評価を受けたために、アッシュがその後音楽的相違のためにバンドを抜けて再度ダンが加入した現在も未だに海外ではアッシュの方が〜いやダンの方が〜とどっちが上かの議論が絶えない。日本でそこまで議論されてないのは元々の知名度がないからなんだろうな。自分はどっちも好きなヴォーカリストであるが、ダンの良さは歌詞をはっきり発音するのと、これまでに数多くのバンドやプロジェクトで経験を積んできた人ならではの、歌の中でエモーションとドラマを表現できる点である。どちらかというと天性の才能やセンスの持主というより勤勉な努力型のタイプで非常に日本人好みのヴォーカリストではないかと思う。余談だがルックス的にはアッシュの方がアイドル的可愛らしさもありフォトジェニックだけどライブで見たらダンの圧勝と予想。誰だね、そこで「そもそもアッシュはデブなんだからダンが圧勝なのはライブで見るまでもないよ」などと言っているのは。

Polaris

Polaris

 

Polaris」は前作「Altered State」の絶賛を受けて現代プログレの大御所Kscopeレーベルに移籍後第1弾となる通算3作目のアルバムである。元々のテッセラクトのファンだけでなく「いよいよこっちの世界に来たな、いらっしゃ〜い」と期待に胸を膨らませたKscope信者もさぞかし多かったことだろう。しかし正直言って前作の「Altered State」に比べると今回の「Polaris」は前作の「Nocturne」級のキラーチューンがないこともあって非常に地味である。少なくとも一回通して聴いただけだと全部同じ曲に聞こえて面白く感じられないんじゃないかと思う。アルバムリリースに先行して公開された「Messenger」を聴いた時に「これは何か違うんじゃないだろうか?」という不安さえ覚えたものである。そもそもプログレ愛好者はともかく一般的なメタル好きにとって「Polaris」はメタルとしての面白さがあるんだろうか?少なくともプログレッシヴメタルならではの超絶技巧を期待すると肩透かしを食らうことは間違いない。

テッセラクトが各パートの超絶技巧を個別に楽しむ類のバンドでないことは先にも述べたが、特に「Altered State」以降は冷気と硬度を持つ楽器隊のアンサンブルと、それらとは対照的な個性を持つヴォーカルとのコントラストによって作品のドラマ性を際立たせる効果を狙っているように感じている。例えば「Altered State」の場合はアッシュのヴォーカルの持つ「優しさ」「柔らかさ」であり、「Polaris」の場合はダンのヴォーカルの持つ「熱さ」「情感」である。特に「Polaris」においてはダンのメランコリックで叙情的なヴォーカルを楽器隊によってガチガチに構築される例の超立方体の枠に嵌めることで高度に複雑化された現代社会の閉塞感や先行きの見えない不安感が音の中で見事に表現されている点で80年代のRUSHの一連の作品を彷彿とさせるものである。ちなみに当初「何か違う」と感じた「Messenger」はアルバムの中で通して聴けば違和感は全くない。
しかしこの作品の良さを理解するにはやはりある程度繰り返し聴き込む必要はあると思う。いわゆる典型的な「スルメ盤」であり、第一印象はどちらかというとピンと来ないという人の方が多いんじゃないだろうか(他の方のレビューを見てもそんな感じだし)。アルバムの中で比較的キャッチーでわかりやすい曲は3曲目の「Survival」で、取っ掛かりとしてこの曲から聴いてみるのも手ではある。
とにかくヴォーカルが毎回変わるのでダンが〜アッシュが〜となりがちだが本来テッセラクトはヴォーカルを楽しむバンドではない。ダンのヴォーカルを存分に堪能したかったらSkyharborやWhite Moth Black Butterflyの方がいいと思うしアッシュならVoices From The Fuselageの方がお勧めだ。テッセラクトにおいてはヴォーカルはオマケとまでは言わんが他のdjent〜プログレッシヴメタルのバンドと差別化を図るための単なる「素材」扱いしてる感は伝わってくる。きっとヴォーカリストにとってはストレスの溜まることも多々あるんだろうな。ダンが色々別プロジェクトをやりたくなる気持ちはわからんでもないが、何だか内容被っているようなのもあるしもうちょっと数を絞ったほうがいいんじゃないかね。