sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Metal Resistance」BABYMETAL(2016)

BABYMETALの魅力についてはもう既に熱心なファンの方のブログやAmazonレビューでいくらでも語られているが、やはり「アイドル」と「メタル」という組み合わせの「意外性」に尽きると思う。元々アイドルに象徴される刹那的な少女性はどちらかというとパンクと親和性の高いものだからだ。一方メタルの世界も今や女性アーティストは珍しくないがそのほとんどがセクシーな「オトナのお姐さん」達である。この点でBABYMETALは音楽性においてもアティテュードにおいても本来の意味での「オルタナティブ」な存在といえる。しかもリードをとるSU-METALのヴォーカルは全く「メタル」的でないし、YUIMETALとMOAMETALのヴォーカルに至っては純然たるお嬢ちゃまロリポップである。それ故に「感覚的に無理」という人の気持ちは理解できる。デビュー当時は「何だこれは?」と海外のメディアやメタルファンの間でも激しい賛否両論が起こっていたが、そんな論争を巻き起こすことこそロック的じゃないだろうか。しかし批判するならしっかり彼らの音楽に向き合った上で批判してもらいたいものだ。先日ピーター・バカラン、じゃなくてバラカン氏がBABYMETALについて「あんなまがい物によって日本が評価されるなら本当に世も末」などと貶していたがたまたま自分の好みじゃないタイプの音楽について「まがい物」だの「世の末」だのとよくもまあ自信満々に断言できるものだと呆れるしかない。大体ロックにまがい物も本物もあるんだろうか?だからアンタはバカランなんだよ、と言いたくもなるがそれでは同じ穴の狢になってしまうかもしれん。
彼女たちの凄さはとにかくステージの中でも外でも「プロフェッショナル」に徹していることだと思う。今のアイドルは「親しみやすさ」「等身大」「共感が持てる」を前面に出しているのに比べ、BABYMETALの場合は握手会も私生活の切り売りもないので、どこか神秘的で謎めいていてどちらかというと昭和時代の「スター」、あるいは「アニメの世界」から出てきたような非現実感が漂っている。これらは元々ロック・エンターテイメントとしては「王道」であるものだ。全盛期のデヴィッド・ボウイやKISSやクイーンだってある意味キワモノで漫画的だったではないか。大体80年代をリアルタイムで経験している私に言わせればミュージシャンにはその辺を歩いているような格好でステージに上がってほしくないんである。こっちは決して安いとはいえないお金を払ってCDを聴いたりライブに行くのだからそれ相応の「夢」を見せてもらわないと困る。
BABYMETALが予想外の絶賛をもって受け入れられたのは、現在アイドルポップ界もメタル界も共に飽和状態にあって、「何か新しいもの」「何か面白いもの」を求める空気がファンコミュニティーの間で醸成されていたからだと思う。いや、メタルに限らずロック全体が現在先細りの危機感を抱えているからこそのBABYMETALが期待感を持って受け入れられたとも言えるかもしれない。恐らく90年代のグランジ/オルタナブーム等で米英ロックシーンが盛り上がっていた頃にデビューしていたらそれこそ極東から来た「キワモノ」「企画物」で終わっていただろう。英メタル・ハマー誌や英ケラング誌がBABYMETALを何度も特集して「我々の仲間」としてメタル・コミュニティーの中に取り込んでくれるのは、80年後半以降英国で急速に下火になっていたメタルシーンを再び盛り上げるには旧来のメタルとは異質な要素を積極的に受け入れざるを得ないということを痛いほど認識しているからなのだろう。この点BABYMETALをいまだに全く無視し続ける我が国の某誌の態度は頑迷ともとれるしある意味周りに流されない確固たるポリシーの持ち主ということもできる。しかし今や某誌やバカラン(←しつこい)のような「権威的な存在」に認められないことはロック的な意味ではむしろ名誉なことなのかもしれない。
METAL RESISTANCE(通常盤)

METAL RESISTANCE(通常盤)

 

 「Metal Resistance」はそんなBABYMETALが満を持して送り出した2ndアルバムである。一言で言えばメロスピ、スラッシュ、メタルコア、ヴァイキングメタル、プログレメタル等「メタルの各サブジャンルの一番美味しい部分」をこれでもかと詰め込みまくった「メタルの見本市」的作品だ。アイドルポップ寄りだった1stに比べるとメタルファンには音的に整理されていて聴きやすいアルバムだと思う。しかも1曲1曲の完成度が高く全く捨て曲がないのは驚異的である。「まがい物」と言い切るには制作側も演奏側もメタルに対する愛情と本気度が尋常でない。特にラスト2曲の「ドリムシよりドリームシアター的な」超絶技巧プログレッシブメタル的展開は正直言って反則ですらある。ドリムシ好きの私が否定できるわけないではないか。

しかし今後この路線を推し進めてメタルとしての純度が更に上がっていくと今度は「フツーの女性メタルバンド」に落ち着いてしまう危険性も本作は孕んでいる。例えば10曲目の「No Rain, No Rainbow」など全くまっとうなメタルバラードである。SU-METALならその路線で将来進んでもそれなりに成功するかもしれんがやはりYUI&MOAのダンスとキャピっとしたお嬢ちゃまヴォーカルがないと「オルタナティブ」感はない。やはり「あわだまフィーバー」や「GJ!」みたいなアイドル歌謡曲の良い意味での「臭み」は残してもらいたいものだ。
「美人は三日で飽きる」のだ。BABYMETALにはいつまでも「何じゃこりゃ?」的なサプライズを提供するスタンスでいてもらいたいのである。まあそろそろ衣装のコンセプトは変えてもいい頃かもしれん。本人たちだってたまには全然違うタイプの衣装を着てみたいと思うんだけどな。