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sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Mad, Bad, and Dangerous to Know」Dead Or Alive(1987)

実は前回のジュリアン・コープの記事を書いた後から「次はリヴァプールつながりでデッド・オア・アライヴ(以下「DOA」)にしよう」とこの数ヶ月間ずっと考えていたのだがずるずると先延ばしにしているうちにピート・バーンズが心不全で急逝したというニュースが入ってしまった。数年前にも命を落としかねないレベルの大病を患っていたことがあったから今回の死因はその時のと無関係ではないと思う。近年は整形依存の元ロックスターといういささか興味本位的な企画番組で取り上げられることのほうが多いピート・バーンズであったが、全盛期のDOAは(特に日本では)80年代の一大ブームであったユーロビートの第一人者として大人気だったのである。しかし最初からユーロビートの人として認知されていたわけではなく、彼らが「You Spin Me Round (Like a Record)」の大ヒットで日本の洋楽雑誌でも取り上げられるようになった1985年頃は中性的で妖艶なルックスから「ボーイ・ジョージのライバル」という扱いであった(ピート本人もしょっちゅうボーイ・ジョージの事を聞かれるのでうんざりであったらしい)。この「You Spin Me Round」は基本的にはダンスポップなのだがピート・バーンズの(中性的な容姿とは対照的な)唸るようなアグレッシブな低音ヴォーカルにより、まごうことなきロックとして成立している彼らの一番の代表曲である。ちなみに前述のジュリアン・コープとの関連だが、ジュリアン・コープとピート・ワイリーは(後のエコー&ザ・バニーメンの)イアン・マッカロクと組んでいたクルーシャル・スリーというバンドの後に、ピート・バーンズとThe Mystery Girls(これもカルチャークラブの「Mystery Boy」を彷彿とさせる妙な因縁を持つ名前である)を結成しており、このメンバーで後のティアドロップ・エクスプローズの代表曲の1つとなる「Bouncing Babies」を演っていたということである。そもそもDOAは最初からダンスビートを取り入れていたわけではなくそのごく初期はエコバニやティアドロップ・エクスプローズみたいなネオサイケ風の音楽をやっていた。正直こっちのほうがいいのにと思ってしまうのは私の個人的趣味であって、やはりその後大胆にダンスビートを取り入れたからこそ後に強烈な個性の持ち主として独自の立ち位置を構築しえたのだと思う。独自の立ち位置といえばバイセクシュアルがそう珍しくない世界とはいえピートのように女性と男性の両方と結婚までした人というのはそうそういないのではないだろうか。整形回数の異常な多さも含めて何かと規格外の人であったと思う。 

Mad Bad & Dangerous to Know

Mad Bad & Dangerous to Know

 

この「Mad, Bad, and Dangerous to Know」は当時「ブラン・ニュー・ラヴァー」という邦題でリリースされていたDOAの3rdアルバムである。一般的にDOAの代表作はその前のアルバム「Youthquake」なのだけれど、やはりどうしても例の「You Spin Me Round」が突出しすぎているし、よく聴くとニュー・オーダーや(当時一世を風靡した同郷の)フランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドのパクリみたいな曲もあってまだ粗削りなところが多い。その点本作は「Brand New Lover」「Something in My House」「Hooked on Love」「I'll Save You All My Kisses」と粒揃いのシングル曲がバランスよく収まっておりアルバム全体を通してこの時期ノリにノッていたストック・エイトキン・ウォーターマンのプロデュースによる洗練されたダンサブルなシンセポップが詰まっている。さらに何と言ってもジャケットが美しい。洗練された中にもダークで物憂げでDOA初期のゴスの雰囲気も漂う傑作だと思う(写真はBob Carlos Clarke)。しかしDOAがロックバンドとしての有効性を保っていたのはこのアルバムまでで、その次の「Nude」においては完全にユーロビートへ変わってしまっている。この「Nude」に収録の「Turn Around and Count 2 Ten」など日本では随分ヒットした記憶があるのだが先ほど本国イギリスのナショナルチャートを調べたら70位といささかショッキングな順位でビックリであった。改めてDOAの全英シングルチャートの成績を見てみるとトップ10内に入っていたのは「You Spin Me Round」(最高位1位)だけであり、本国では彼らは日本で以上に一発屋なイメージだったのだろう。晩年のピート・バーンズは整形を繰り返し往年の妖艶な美貌は見る影もなくなってしまっていたが、やはり私の中では彼は今でも本作のジャケットのような、華麗で妖艶かつ野性味も漂う美貌の持ち主なのである。整形依存ネタがメインとはいえ日本のTV番組で度々取り上げられたおかげで現在も若い世代の音楽ファンがピート・バーンズの往年の美貌やDOAの音楽に興味を持つようになったのはよいことであった。本当はもっとピート及びDOAについては個人的思い入れもあり色々書きたいことがたくさんあるのだが今はとにかくこれ以上波乱万丈の人生もなかろうという一生を駆け抜けたピートにお疲れさまと言うにとどめておく。