sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「From Death To Destiny」Asking Alexandria(2013)

英国ヨークシャー出身のメタルコアバンドAsking Alexandria(以下「アスキン」)については既にここで度々触れたことがあるが、実は私がアスキンを知ったのはつい最近のことで以前ここでも取り上げたペリフェリー(Periphery)と同じスメリアン・レコード所属のバンドという認識しかなくしかも当初はAlexandriaという大仰なバンド名からBorn of OsirisやVeil of Mayaみたいなアメリカ出身のDjentなバンドなんかな~と思って期待していたのに曲を聴いたら全然Djentじゃなくて拍子抜けしたものである。ちょうどヴォーカルのダニー・ワースノップがバンドを脱退したばかりでその界隈で大騒ぎになっていた頃で当時はメンバーに関して予備知識も何もなかったから「ふーん大変だね」という感じだったのだがその後にYouTubeでAshe O'Hara時代のテッセラクト(TesseracT)の動画のコメント欄に「このヴォーカルの人、声もルックスもダニー・ワースノップのクリーン版だよね」というのを見つけて「何、じゃあこのダニー・ワースノップというのはバッチくなったアッシュみたいなんか?」と俄然興味を持ったものである。ちなみにこの他にも数件ダニーに似てるというコメントがその動画に散見されたが正直言ってアッシュが似てるのは体型だけで「あんたらデブいヒゲのオッサンならみんなダニーだと思ってるでしょ」という感想しかない。まあダニーも基本はイケメンだけどな。個人的にはこのバンドで一番のイケメン扱いのギターのBen Bruceよりよっぽど端正な顔立ちだと思うのだがどうだろう(←多分誰にも同意してもらえない)。

ところでアスキンはイギリス出身ながらデビュー当初から本国よりアメリカ市場を意識した活動を行ってきたバンドのようで、しかもメンバー達のルックスの良さもあり「何だかデフ・レパードみたいだな」と思ったのだけど、過去の作品を調べてみたら本当にデフ・レパードの「Hysteria」をカヴァーしてて笑ってしまった。何でもこのバンドはやってる音楽はメタルコアながら80年代ハードロックに造詣の深いメンバーが複数いて特にダニーなどは某誌インタビュー動画の「お気に入りの80年代アルバム」として挙げていたのが先ほどのデフ・レパードエアロスミスに加えモトリー・クルーMr.BIG、さらにはフォリナーという、現在では正直言って「イケてる」とは言い難いセレクションに「この人ガチでコテコテのハードロックファンだな」と好感を持ったものである。以前ここで取り上げたジャーニーの「Separate Ways」のカヴァーも原曲に殆ど忠実で曲に対するリスペクトが感じられるものであった。そんな彼らのハードロック趣味が前面に打ち出されたのがアスキンの3rdアルバム「Fron Death To Destiny」である。

From Death to Destiny

From Death to Destiny

 

ダニーのヴォーカルのスタイルが以前と全く変わってしまい、それに合わせるように音楽面でも初期の売りであったエレクトロな部分が全く影を潜める一方で80~90年代のHM/HRのテイストが前面に押し出されているためにファンの間でも賛否両論あるようだけれど個人的に本作はメタルコアという枠を超えて、長い歴史を持つブリティッシュ・ハードロックの現代的解釈が施された傑作だとすら思っている。私にとって英国出身の現代メタル/メタルコア系バンドというと何をおいてもBFMVが一番なのだけど、このアルバムはひょっとしてBFMVの名盤である「The Poison」を越えているかもしれない。何と言っても冒頭の「Don't Pray For Me」から「Killing You」~「The Death of Me」までの3曲の流れがとにかく神がかっており、力強いハードロックナンバーである5曲目「Break Down The Walls」までは一気に聞かせる力を持っている。元々ダニーはメタルコアのヴォーカリストとしても業界屈指の実力の持ち主だったようだったが、長年の喉の酷使の影響とはいえ渋くてブルージーな濁声で朗々と伸びやかに歌い上げる現在の彼のスタイルのほうが私はずっと好きである。後半のこれまた80年代HM/HRを彷彿とさせるメロディアスなバラード「Moving On」から壮大な広がりを持つ「The Road」へ繋がっていく展開も感動的だ。ただし良くも悪くも本作は「ダニーのアルバム」でありアスキンというバンドが本来持つ個性とはやはり少し違うのではないかとは思う(なおこのアルバムの後にダニーはアスキンを脱退するのだが、デニス・ストフを新ヴォーカリストに迎えた4th「The Black」はデニスというよりバンドの総合力が存分に発揮された良作である)。この辺は今後の彼らの音楽的方向性を占ううえでなかなか興味深いものがある。

元々本作についてはいずれ「こんないいアルバムなのに今のアスキンの中では継子扱いで勿体ないよね~」というスタンスで書こうと思ったのだけれど、何とつい先日デニスがバンドを抜けたためにダニーが急遽アスキンに戻ったというニュースが入った。このデニス脱退の経緯も腑に落ちない点が多くてまさに真相は「The Black」なのだけれど、ツイッターSNSにおける大絶賛&大歓迎のコメントの嵐を見る限りどうやらアスキンにおけるダニーの存在というのは歌唱力とかステージプレゼンス等テクニカルな部分にとどまらず彼のキャラクターやこれまでの数々のエピソードがアスキンというバンドの個性と深く結びついているためにファンにとっては替えの利かない存在となっているようだ。デニスは器用なタイプのヴォーカリストで特に中音域のクリーンはダニーとは全く異なる個性を持っていてそれはそれで魅力だったのだけれど、「アスキンのヴォーカリスト」として見たときにどうしてもダニーに敵わない部分があったことは否定できない。多分デニスに限らず誰でも無理なんだろう。ちょうどブレイズ・ベイリーがブルース・ディッキンソンの後任としてアイアン・メイデンに入った時のような無理ゲーだったんだろうと思う。これは本人達の力量とは関係ない所にあるものだから仕方がない。

個人的にこのヴォーカル交代劇には複雑なものがある。きっとダニー復帰を受けて本作は今後正当に評価されるのだろうし次の新作もハードロック色が強くなる可能性が高くなるから本来は歓迎するべきなんだろうけど問題は「We Are Harlotはどうなるの?」ということだ。実は私はダニーについてはアスキンでなくWe Are Harlotから知ったので彼らの今後の活動がダニーのアスキン復帰によって全く見通しの立たないものになってしまったことがとても残念なのである(本人は両方やるとは言ってるがそもそも両立できてれば元々アスキンを抜ける必要はなかったわけで)。大体大規模ツアー直前にデニスが脱退し即戦力が必要とはいえ既にHarlotで活動してたダニーを呼び戻すとかあまりにも強引すぎないか?何だか10年前にドイツW杯の惨敗を受けてジーコが日本代表監督を辞めたときに当時ジェフ千葉の現役監督でカリスマ的人気のあったイビチャ・オシムジーコの後任として日本代表に召し上げられた時みたいな気分だよ。あの時も周りは大歓迎&大絶賛の嵐だったけどジェフサポの自分は「勝手に決めるなアホ」と怒りまくったものである。あ~そういえばWe Are Harlotにもジェフ(・ジョージ)がいるな、二重にトラウマだ。