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sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Private Eyes」Daryl Hall and John Oates(1981)

今でこそ当たり前のように英国派を自称しているけれども、元々自分が洋楽オンリーの道に入ったきっかけはアメリカはフィラデルフィア出身のダリル・ホール&ジョン・オーツだった。小学生の時に偶然見つけて聞いていたFEN(現AFN)でよくかかっていたのがホール&オーツの「Private Eyes」だったのである。その時は(すべて英語だったから)バンド名すら全くわからなかったけれど、当時放映していた「ベストヒットUSA」で偶然かかったPVを見て名前を知り、本屋で「ミュージック・ライフ」誌(以下「ML」)を即購入したのである。それが私にとって初めての洋楽誌であった。今から思うと小学生にとっての洋楽の入り口としては随分と渋い選択だったと思う。当時MLの編集長だった東郷かおる子女史はダリル・ホールのミーハーファンを自称していたしかの雑誌お得意の美青年特集(笑)でも度々ダリルを登場させていたのだが、デヴィッド・ボウイデヴィッド・シルヴィアンジョン・テイラーデュラン・デュラン)等欧州耽美系アーティストがひしめく中ごり押し感はぬぐえず苦笑ものであった。当時「イケメン」という便利な言葉がなかったのでこのような違和感ありありなセレクションとなったのだろう。これはひょっとして私だけの感覚かもしれないが「イケメン」とはルックスやスタイルやファッションが当世風(≒今風)である男性を指すのであって本来の顔の造形の端正さはさほど厳密に求められてないような気がする。ダリルは確かに金髪碧眼長身のイケメンだけれどもソロとしては個性が弱く、やはりジョン・オーツというダリルとはルックスも声質も全く正反対の個性を持つパートナーがそばにいるからこそ本来の持ち味を発揮するタイプだと思う。前にワム!の記事でも書いたのだけど特に「デュオ」においてはどちらか一方だけがソロで活躍できてしまうぐらいの個性と存在感を持ってしまうとその体制を長く維持し続けることが難しくなる。ワム!の場合はジョージ・マイケルが卓越した歌唱力もありかなり早い時期にソロで充分にやっていけるだけの存在感を身に着けてしまったのでわずか活動期間5年で解散してしまったのだけれど、ホール&オーツが1970年の結成から一度も解散することなく現在まで活動を続けてきたのは、やはり彼らの見事な「凸凹コンビ」ぶりによるところが大きいからじゃないだろうか。

元々彼らはブルー・アイド・ソウル(白人ミュージシャンによるソウル~R&B音楽)のデュオとして出発したのだが、やはりジャンルの壁は厚かったのか商業的にはかなり苦戦していたようである。しかしこの時期のホール&オーツに何とJAPAN結成前のデヴィッド・シルヴィアンが興味を示していたらしく「War Babies」(1974年)は彼のお気に入りだったという(何でこの全米86位の地味なアルバムにイギリスのロンドン郊外の一青年が興味を示したのかさっぱりわからないのだが、恐らく当時の彼のマイブームであったモータウン他アメリカのR&B音楽への傾倒と関連があるのだろう)。その後「Sara Smile」「She's Gone」(1976年)「Rich Girl」(1977年)等の全米トップ10ヒットを飛ばすものの当時全世界的に猛威を振るっていたディスコブームに乗り切れずトレンドに逆行するかのようにロック路線に転換するなどしばらくの間低迷していたようである。 今でこそロックとR&B音楽の融合など珍しいことでも何でもないが80年代初期は両者の間にはまだまだ分厚い壁があったように思う。かくいう私も当時はオコチャマだったので彼らのR&Bの部分がピンとこなかった。今聴くとギラギラ感の強い80年代の作品群より初期のR&B色の強い作品のほうが心地よく感じるのだけれど、小学生にとってはロックのわかりやすさのほうが魅力だったんだろうと思う。

Private Eyes

Private Eyes

 

 「Private Eyes」はホール&オーツの通算10枚目のスタジオアルバムで彼らの初の全米トップ10ヒットとなったアルバムである(最高位5位)。デビュー当初から彼らが試行錯誤を続けてきたR&Bとロックの融合が初めて実を結んだ作品ともいえるだろう。その前のアルバム「Voices」も「Kiss on My List」(全米1位)「You Make My Dreams」(全米5位)等大ヒット曲や後にポール・ヤングのカヴァーで知られることとなる「Everytime You Go Away」を収録した名盤なのだけれどロック色の強い曲群の多い前半(A面)と渋いR&Bの多い後半(B面)にはっきり分かれているために当時オコチャマだった私にとってB面は何だか敷居が高くてA面ばかり聴いていたので、ロックとR&Bの両者がバランスよく混ざった「Private Eyes」のほうがよりとっつきやすいアルバムに感じたものである。タイトル曲の「Private Eyes」はキャッチーなメロディーが印象的なロック色が強い曲であるが、もう一つの全米No.1ヒットである「I Can't Go for That (No Can Do)」は洗練の極みといえるR&B曲(この曲の特徴的なベースラインを「Billie Jean」で取り入れさせてもらったと後にマイケル・ジャクソンUSA For Africa(「We Are the World」の曲で有名)のプロジェクトでホール&オーツに出会ったときに語ったというエピソードがある)で前者と好対照をなしている。しかしこのアルバムの最も良い所はシングル曲以外の収録曲のレベルが一様に高いところであって、どの曲もシングルカットに耐えられる完成度の高さを持っていると思う。特に後半に良曲が集中しており「Head Above Water」やジョン・オーツがヴォーカルの「Friday Let Me Down」もノリの良いロックナンバーだ。しかし個人的に最も好きで今も繰り返し聴くのが感傷的なメロディーの「Unguarded Minute」である。一般的によく知られているホール&オーツのアルバムはこの次の「H2O」や「Big Bam Boom」であるが、個人的には全盛期に向かって駆け上がっていく勢いの本作が、初めて出会ったホール&オーツのアルバムということもあり特に思い入れのあるものである。後にワム!スタイル・カウンシル等のブルー・アイド・ソウルのユニットが続々と登場するがその潮流を作ったのがホール&オーツであることは間違いない。「もう1人」ネタでいじられていたことも共通だしな。誰だよもう1人って(←どっちとは敢えて言わない)