sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Spooky Action」Paul Draper(2017)

プログレッシブ・ロックというと日本ではどうしても例の70年代英国五大バンドやユーロロックカンタベリー系周りのイメージが強いし、NHK-FMの「プログレ三昧」みたいな番組や洋楽誌のプログレ特集でも大体この辺しか取り上げてなくてドリームシアターみたいなのは「あんなのただのメタルだろ」とバカにされるし現代プログレの第一人者スティーヴン・ウィルソンなどは存在すら無視される始末(一応この前の「プログレ三昧」では曲をかけてもらったけど、と一応フォローしておく)。大体英国プログレ専門誌で何度も表紙になっているラッシュでさえ日本ではプログレと認めたがらない空気があるしな。以前スティーヴン・ウィルソンが「Hand. Cannot. Erase.」をリリースした時にSWおよびKscopeを総力特集した「ストレンジデイズ」誌はGJであったがその後まもなく休刊してしまったしこの全く「プログレッシブ」でない現状どうにかならないんだろうか。まあ本国イギリスでも70年代プログレ原理主義者みたいなのは結構いるようでつい先日リリースされたスティーヴン・ウィルソンの「To The Bone」も80年代ポップスに影響された明るく親しみやすい作風に「彼はプログレを捨てたのか?」みたいな議論がなされているようでどこでもプログレッシャーというのは面倒くさい連中なのだということを実感させられる。

SPOOKY ACTION

SPOOKY ACTION

 

ポール・ドレイパーは90年代後半に人気を博したマンサンのヴォーカリストである。 一般的にマンサンはUKオルタナティブ/インディーロックのバンドという認識なので、このポールの初のソロアルバム「Spooky Action」のリリースが現代プログレッシブロックを牽引するKscopeレーベルからというのは少々意表を突いた選択かもしれない。元々マンサンは2nd「Six」においてプログレ的なテイストを全面的に見せてはいたけれども、その路線に当時所属のレコード会社が難色を示したらしくその次のアルバム「Little Kix」ではプログレ色が大幅に後退した王道バラード路線で本人的にも色々と不満があったようで、今回のソロアルバムが「実質のマンサンの3rd」という位置づけでもあるらしい。ポールは元々70年代プログレは特にファンというわけではなく(せいぜいピンク・フロイドの「危機」を聴いたぐらい?)、プログレ的な要素は主に後期ビートルズやプリンスなどからの影響であるということだが、Kscopeとの契約といいスティーヴン・ウィルソンとのコラボレーション(←「EP ONE」収録曲の「No Ideas」)といい、本人が現在やろうとしているタイプの音楽がいわゆる「現代プログレ」といわれる類のそれに非常に近いことは否めないと思う。本作もマンサン解散から14年という歳月を経ているという予備知識がなくても相当の時間をかけて非常によく作りこまれたアルバムであることは一回聴いただけで実感できる。冒頭から6分を超える長尺曲「Don't Poke The Bear」からして様々な時代や様式の英国ロックのエッセンスが無節操に詰め込まれた怪作である。マンサンはドミニク・チャドのギターが目玉の一つであったのだけど、本作はどちらかというと80年代ニューロマンティクスを彷彿とさせるシンセサイザーがフィーチュアされた曲が多く、その辺が聴き手の好みの分かれる所だろうと思う。一方で「Can't Get Fairier Than That」「Feel Like I Wanna Stay」のような、往年のマンサン時代を彷彿とさせるキャッチーでポップなギターロックもありどこかホッとさせられる。個人的には近年のポールの音楽上のパートナーであるThe AnchoressことCatherine Anne Daviesとの共作5曲が、The Anchoressにも共通する鬱屈したエモーションを内包したメランコリックで叙情的な作風でありながら、同時にマンサン時代からのポールの持ち味である耽美な情感が感じられて興味深い。自分一人で作るより他人の客観的な目を通したほうが、自分ではなかなか自覚しにくい本人の個性や魅力が引き出されるのかもしれない。ただし全体的に複雑で情報量が多く一回聴いただけでは掴みどころがない部分も多々あるので、Kscopeリスナーで今回初めて本作でポール・ドレイパーの作品に触れる方は、是非何度も繰り返し聴くことをお勧めする。これは全くの憶測だがスティーヴン・ウィルソンが「To the Bone」を制作するにあたり、イメージしたアーティストの一人に(はっきりとは明言されていないが最近のコラボの動きを見ても)ポール・ドレイパーもいたんじゃないかと思う。彼の80年代ニューウェイブに影響された一見ポップでありながらコアの部分は複雑で屈折した作風と、プログレオルタナティブの絶妙な境界線にいる立ち位置は、後期ポーキュパイン・トゥリーで顕著だったヘヴィー路線を離れたSWが次に目指す場所なのかなと思っている。今、「境界線」と書いたけれども、オリジナルで奇妙で複雑で面白いものという点では「プログレッシブ」も「オルタナティブ」も本質的には全く変わらないと思うし、今後のポールおよびKscopeには本質的な意味でのプログレッシブ/オルタナティブロックを提供してもらいたいものである。