sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Atone」White Moth Black Butterfly(2017)

前回の続きみたいな愚痴話なのだけれど、実質的に同じような音楽性を持ちながらその出自ゆえにこのバンドはメタル、このバンドはオルタナと言った特定のカテゴリーに収められることで他のジャンルのファンに興味を持たれなくなってしまう状況は実にもったいないと思っている。ポール・ドレイパーが最近Kscopeと契約したことで向こうのプログレ専門誌にもインタビューやレビューが載るようになったけれども、本国でも日本でも依然として彼はMansunブリットポップのアーティストというイメージだしファンの大半もその路線を期待しているのも不幸な話だと思う。Kscope系に限らず例えばBring Me The Horizon(←いずれここで取り上げると思う)の最近の音楽性はもうほとんどオルタナティブロックと言っていいほどなのだけれど元々のオルタナティブ好きがBMTHを聴いてるかというと少なくとも日本では全然そうじゃないので、出自にとらわれずに作品に向き合うのは難しいなと痛感している。複数の異なる(かつ互いに相容れない)ジャンルの狭間に落ちてしまった故に正当な評価を受けられなかったバンドは過去に枚挙にいとまがなく、この点でもジャンル細分化の弊害は実に大きいと言わざるを得ない。

Atone

Atone

White Moth Black Butterfly(以下WMBB)はSkyharborのKeshav DharとTesseracT/ex-SkyharborのDaniel Tompkinsが中心になって結成されたポストロック~アンビエント系のプロジェクトである。2014年に自主製作の1st「One Thousand Wings」がリリースされており、そのあとに続く本作「Atone」がKscopeからの第1弾となっている。メンバーがメンバーだけに「Guiding Lights」(←Skyharborの2nd)で見られた耽美性抒情性は本作にも引き継がれているもののプログレッシブメタルの要素は全くない。一方影響元としてMassive AttackEnigmaSigur Ros等が挙げられており、どちらかというとオルタナティブロックのリスナーにアピールする音楽性を持っているんじゃないかと思っている。1stから独特の世界観と楽曲のクオリティの高さには目を見張るものがあったけれど、本作はドラマチックな展開かつ親しみやすいメロディーの曲が増え、よりとっつきやすい内容となっていると思う。Daniel Tompkinsに関しては元々First Signs of FrostやTesseracTの1stのような青春熱血系ド直球エモヴォーカルが好きだったので初めてWMBBの1stを聴いた時にはその情感溢れる耽美的な歌いまわしに「正直Danにはこういう路線は求めてないんだけどなぁ~」と思ったものだけれども、本作ではその辺がもう少しコントロールされより洗練されてきたように感じる。数々のバンドやプロジェクトに参加し作品を出すごとに表現力の幅が広がっていくDanのヴォーカルの進化ももちろん素晴らしいのだけど個人的に特に惹かれたのがJordan Turner(前作のクレジットはJordan Bethany)のドリーミーで浮遊感あふれるヴォーカルである。Kscope所属の女性シンガーはそれぞれに個性的でみんな大好きなのだけれど、Jordan嬢はLee Douglas(Anathema)やMarjana Semkina(iamthemorning)の清純な天使性にBjorkやCatatonia時代のCerys Matthewsのような少女のような妖精性が加わったマジカルな魅力を持つ声の持ち主で、本来もっと注目されるべきヴォーカリストだと思っている。とにかくWMBBはSkyharborやTesseracTのメンバーの別プロジェクトという先入観を抜きにして現代プログレからポストロック、ドリームポップ、オルタナティブロックのファンの方にも聴いてもらいたいユニットで、日本盤が出ない故に日本の洋楽雑誌に取り上げられないのは国内の洋楽シーンにとって大きな損失だとすら思っている。YouTubeにもアルバムからの音源が数曲公開されているので、興味を持った方はぜひ聴いてみてください。