sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Dare」The Human League(1981)

前回がABBAだったので今回は「エレクトリック・アバ」と言われたこともある英国シェフィールド出身のエレクトロ・ポップバンドのヒューマン・リーグを取り上げたいと思う。元々ホール&オーツがきっかけで洋楽の世界に入った小学生の私をたちまちUK派にしてしまったバンドがヒューマン・リーグであった。ちょうど「愛の残り火(Don't You Want Me?)」が全英チャート1位を獲得した頃である。当初ホール&オーツ 目当てで買った「ミュージック・ライフ」誌にヒューマン・リーグの「Dare(当時の邦題は「ラブ・アクション」)」の広告が載っていて、その斬新かつオシャレなデザイン(「ヴォーグ」誌の表紙を意識したらしい)に「さすがイギリスだな」とにわかに興味を持ったのである。女性が2人いるだけでエレクトリック・アバというのも安易な気がするが当時の彼らの勢いが世界各国で数多くのヒット曲を連発してきたABBAになぞらえたくなる気持ちはわからないでもない。元々ヒューマン・リーグは男性4人組で出発したバンドであるが、アルバム2枚リリース後イアン・マーシュとマーティン・ウェアーがバンドを脱退してヘヴン17を結成し、残ったフィル・オーキーとエイドリアン・ライトが女性2人(ジョアンヌ・キャスロールとスザンヌ・サリー)と男性2人(イアン・バーデンとジョー・キャリス)を新たに加えて新ヒューマン・リーグとして再出発したものである。当時の写真を見てもわかるように4人組時代のいかにも暗黒UKニューウェイヴみたいな雰囲気からうって変わって華やかでファッショナブルなイメージを大胆に押し出したことは当時イギリスで全盛期を誇っていたニューロマンティクス の流れにもうまくマッチしたといえる。ニューロマといえばこの時期のヒューマン・リーグの連中(っていうかフィルと女性2人)の化粧はケバかった。フィルに至っては謎のワンレン長髪(当時はロップサイドという言い方をしていたと思う)にツタンカーメンみたいなヘヴィーなアイメイクなものだからインパクトは相当のものであっただろう。当時小学生だったわたしもワンレンボブを伸ばしてフィルみたく前髪ダラリをやろうと思ったのだがそんな髪型が小学校で許されるわけがなく即撃沈した。ヒューマン・リーグは1982年に初来日しているが、その時の取材に対する彼らの態度が最悪だったと毎年恒例の「ミュージック・ライフ」の年末企画である編集部座談会で暴露されている(取材担当に「今までこんなに印象の悪いインタビューはなかったわ!」とまで断言されたほど)。まあ当時「愛の残り火」が全英チャート制覇に続き全米チャートも制しつつあるという状況にあって多少天狗になってしまったのもわからないでもないが、よくよく聴いてみればフィルの歌はヘタクソだし、女性陣もさらに輪をかけて下手だし、しかもあのメイクがなければルックスも皆微妙だからMLの連中も白けてしまったんだと思う。しかし彼らの場合そのヘタさ加減が却ってシンセサイザーの無機質な音にマッチしていた上にフォトセッションやPVやアルバムジャケットのデザインまで「クールでオシャレで華やか」という彼らが意図したイメージで統一されていたのには感心するし、「愛の残り火」の大ヒットも元々曲のキャッチーさが最大の魅力とはいえこういったイメージ戦略による相乗効果は無視できないと思う。「愛の残り火」で女性ヴォーカル部分を担当したのが当時フィルのGFだったジョアンヌではなく金髪のスザンヌのほうだったのは偶然だったのだろうか。多分あれがジョアンヌだったらフィルとのラブラブ臭が鼻について彼らの「クールでオシャレ」なイメージが相当損なわれたんじゃないだろうか。そういった絶妙なバランス感覚も好感が持てるものである。それだけに現在の彼らの中年丸出しの体型を見ると「もうちょっとイメージに気を使えや」と思ってしまうのはわたしだけではあるまい。

Dare: Deluxe Edition

Dare: Deluxe Edition

 

先ほどヒューマン・リーグはイメージ戦略で成功したと書いたばかりなのだがこの3rdアルバム(4人組時代から数えると3rdになるのである)に関して言えば印象に残るメロディーの曲が揃っておりクラシックなアルバムだと言えると思う。「愛の残り火」「ラブ・アクション」「The Sound of the Crowd」「Open Your Heart」等有名シングル曲は多いが個人的にはいかにもUK産らしい哀愁感あふれる美メロとクールなシンセサイザーが魅力の「Darkness」が好きである。この後ヒューマン・リーグが2度目の全盛期を迎えるのが例の「Human」の全米No.1ヒットなわけだが「Human」およびこの曲が収録されている「Crash」というアルバムは当時飛ぶ鳥を落とす勢いだったヒットメーカーのジミー・ジャム&テリー・ルイスのプロデュース(ジャネット・ジャクソン等で有名)で、ファンキーなのに泥臭くなく都会的で洗練された音作りはたしかに聴きやすく個人的には好きなのだけれど、ヒューマン・リーグの作品というよりはジャム&ルイスのプロデュース作品のひとつという立ち位置なので「Dare」のようなクールなUKっぽさは微塵もない。その後の全英ヒット曲「Tell Me When」(1995年)は「Human」の頃のR&B色はほとんど消え「Dare」時代からのヒューマン・リーグらしさを彷彿とさせるクラッシーな作品である。基本的に彼らの曲は今から聴くといかにものチープなシンセサイザーが80年代臭半端ないのだけれど、どの曲からも感じられるオプティミスティックなオーラは今のアーティストの作品からは得難いものかもしれない。