sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「That's the Spirit」Bring Me the Horizon(2015)

最初にBring Me the Horizon(以下「BMTH」)という名前を見たのは確かBullet For My Valentine(以下「BFMV」)のいつぞやの来日公演(←調べたら2010年だった)の時のスペシャルゲストとしてだったと思う。その時の来日公演は見逃してしまってその後しばらく忘れていたのだけど、その次にBMTHの名前を見たのは2016年のNMEアワードでヴォーカルのOliver Sykesがバンド演奏中にコールドプレイのテーブルに飛び乗ったというニュース記事であった。この記事を見て最初に思ったのは「そもそもBMTHってNMEアワードに出るようなバンドだったの?」ということである。元々がデスコアから出発しているのでBFMVとも系統が違うのだけどどちらかというとKerrang!やMetal Hammerで扱ってる領域のバンドだろうから、これらとは全く畑違いなNMEのイベントに呼ばれることにとても違和感を覚えたものだ。それがその年の夏にBBC Radio 1だか2だかで放送していたグラストンベリー・フェスティバルのプレビュー番組でBMTHの「Avalanche」を聴いて「これ、いいじゃん」と一気に引き込まれてしまった。それでやっと当時の新譜だった通算5枚目のアルバム「That's the Spirit」を聴いたのである。リリースから約1年経ってたから何とも遅い反応と言わざるを得ない。そもそも最初に名前を見てから実際に曲を聴くまで実に6年かかっているのだからその間の音楽的な変遷をリアルタイムで体験できず機会損失半端ないと言ってもいいかもしれない(涙)。

That's The Spirit [Explicit]

That's The Spirit [Explicit]

 

 一聴した印象は非常にキャッチーでかつスタイリッシュなアルバムだということである。収録曲の完成度が軒並み高くそれまでこの界隈のジャンルに疎い新規ファンをしっかり取り込む吸引力があると思う。しかしダサい所が皆無というか同郷のBFMVやAsking Alexandriaのような伝統的HM/HR的要素を一切引きずっていないところが何とも落ち着かない(元々私はSykesと聞くとOliverよりJohnを先に連想してしまう古い世代の洋楽ファンである)。既に数々のレビューにある通りデスコアの初期から叙情系メタルコアの前作「Sempiternal」までの比較的緩やかな変化と違いジャンル自体が変わってしまったような変貌ぶりなので、正直ついていけなくなったという初期のファンも多いのではないだろうか。よくデスコアやメタルコアのバンドでボーカルが途中で喉を壊してスクリームが辛くなって次第にクリーンの割合が増えていくという変遷をたどるバンドは割と多いのだけど、このアルバムでは「ボーカルだけでなくギターを弾くのまでつらくなってしまったのか?」と思ってしまうぐらいヘヴィーなギターが激減してしまっている。しかしBMTHの凄い所はここまで音楽性をオルタナティブ・ロックに寄せておきながら決して他バンドの丸パクリにならずしっかりBMTHの音楽となっているところである。最近本作(および前作「Sempiternal」)に影響されたとみられる他バンドの作品のリリースが目立つが、それらが昔からのファンからは必ずしも歓迎されていないことに比べると本作の持つ「これは必然的な変化だ」と言わんばかりの説得力は大したものだと思う。シンセサイザーの入れ方が他の同ジャンルのバンドとは比較にならないほどスマートだというのもあるのだけれど、彼らもまた「どんなアレンジにも耐える普遍的な魅力を持つ曲が書ける」数少ない人たちなのだろう。願わくば日頃NMEで取り上げられるようなバンドのファンの人たちにも聴いてもらいたいアルバムだけれども少なくともここ日本においてはそのような動きはあまりなくて寂しいものがある。過去の記事でも何度か触れているけれどどんなに音楽性が大きく変化しようとも結局は元々の出発点のジャンルに大きく影響されてしまうのだろう(BMTHと同じぐらい音楽的変化を遂げているバンドにAnathemaがあるけれどやっぱりファンの多くはメタル畑だもんなぁ。まあ彼らの場合はそのお陰で来日できるぐらいはファンを確保できているのだろうけれど)。しかしどんなにメインストリーム路線に寄せてもどこぞのバンドと違って英国出身らしさを捨ててないのはUKロックファンには好感が持てる点だと思う。実はこの後のアルバム「Amo」で彼らはさらに「何じゃこりゃあぁぁ」的異次元の展開を見せるのだけどそれについてはまた後日(←書くのか?)。