sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Hot Space」Queen(1982)

映画「ボヘミアン・ラプソディ」の大ヒットで現在日本でも空前のクイーンブームなのだけれど、クイーンが何故世界で最も早く日本のファンに注目され現在も続々と若いファンを増やしているのかというとひとえに彼らが「日本で受ける要素が揃っているバンド」だからなのだと思う。その要素とは①印象的なメロディーを持つ楽曲が多く一回聴いてその良さがわかる②それぞれが高レベルの演奏力を持っているという音楽面での長所に加え③ルックスに華があり、かつメンバー全員のキャラが立っているというもので特に③は後にジャパンやチープ・トリックなどがやはり日本先行で人気が出たように重要な要素だと思っている。単に「ルックスが良い」というのとは少し違う。同時代の類型的なイケメンのアイドルバンド達と違い、クイーンの場合デビュー時に盛んに「少女漫画の世界から飛び出してきたような」と形容されたように彼らのキャラクターは「漫画的」というか「漫画にしやすい」のである。実際私も中学時代クイーン漫画描いたことあるしな(笑)。それにしても「漫画的」ならともかく「少女漫画的」というのはいくらなんでも無理がないだろうかと思ってしまうのは私だけではあるまい。こういうことを言うと熱心なクイーンファンから石を投げられるかもしれないけれど、私の記憶では当時のクイーン、特にフレディ・マーキュリーについてはもっと「いじられ」の要素が強かったのだ。クイーンをいち早く日本に紹介しその後もクイーンを熱心に取り上げ続けた「ミュージック・ライフ」誌の名物コーナーであった「He Said, She Said」というML読者によるネタ投稿のコーナーでもフレディは人気者(?)でやれ出っ歯だのナスビだのと散々いじられていた(ブライアンの病弱ネタやジョンの存在感のなさネタやロジャーのデブネタもあった気がする)のだけれど、それらも彼らの持つ親しみやすさ故の現象であるから映画の影響で「伝説のバンド」的に語られてる現在もやはり無視してほしくない面だよなぁと思ってしまうのである。

ホット・スペース

ホット・スペース

 

 この「Hot Space」はクイーン作品の中で問題作と言われているアルバムで、発売当時のレビューも結構荒れていた記憶がある。映画の中でも殆ど無視されていたしバンドやファンの間でも多分「黒歴史」みたいな扱いなんだろう。何でわざわざそんな作品を取り上げるのかと言えば、単に本作が私がリアルタイムで聴きだしたクイーンのアルバムだからである(笑)。この作品が出た1982年やその前後は70年代の大物と言われたアーティストが時代の変化に対応するために音楽面でも試行錯誤的なアルバムが多く出ていた時期でもあり、デヴィッド・ボウイの「Let's Dance」(1983年)もリリース当時はやはり好意的な評価ばかりというわけではなかった記憶がある。今から聴き返せば「こういう試みもあっていい」という前向きな感想になると思うがやはりリリース当時は「え~そっちに行っちゃうの?」感が強かったのではないだろうか。一言で言ってこのアルバムは物凄くR&Bやファンク色が強くてそれまでの「クイーン・サウンド」を期待すると手痛く裏切られる内容である。冒頭の「Staying Power」からしてホーンセクションとシンセがフィーチュアされたファンキーな曲で「あれ~ブライアンのギターはどこー?コーラスはどこー?」となると思う(実はギターもコーラスもあるのだけれど全く「クイーン的」ではない)。前半(当時はA面に相当する部分)はずっとこんな調子でファンキーで黒いノリの楽曲が続くので正直辛いという人も多かったのではないだろうか。しかしフレディのパワフルなヴォーカルはこれらファンク色の強い楽曲群においても圧倒的であり、彼がロックの枠組みの中に納まらないスケールを持ったヴォーカリストであったことが皮肉にもこの作品によって証明されたところもあると思う。本作はロックとR&Bの垣根を超えたと言われるマイケル・ジャクソンの「Thriller」に影響を与えたアルバムと言われているが、そういう意味では本作は少し世に出るのが早すぎたアルバムと言えるのではないだろうか。しかしさすがにこの路線で進み続けるのは難しかったようで、その次の「The Works」は往年のクイーンらしいロックアルバムで収録曲「Radio Ga Ga」の大ヒットもありファンにも好意的に受け入れられたアルバムだが本作の後ということで「守りに入ってる感」が気になった作品でもあった。やはり「Hot Space」はクイーン史において無視できない貴重な位置づけのアルバムではないかと思う。