sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この1曲】Asking Alexandria「Someone, Somewhere」(「Reckless & Relentless」(2011) )

長年バンドをやっていると音楽性がデビュー時からどんどん変わっていくのは自然なことなのだけど、例えばマニックスの「Motorcycle Emptiness」のように初期のアルバムにその何年も後のバンドの音楽的方向性を予感させる曲というのはあって、Asking Alexandria(以下「アスキン」)の場合は2ndアルバム「Reckless & Relentless」収録の「Someone, Somewhere」がそれに当たるのだと思う。この「Reckless & Relentless」自体はファンの間でも特に人気の高いメタルコアの名盤なのだけど、「Someone, Somewhere」はグロウルもスクリームもブレイクダウンもない超ストレートでどこか懐かしい明るく爽やかなハードロックである。
この曲はボーカルのダニー・ワースノップの個人的心情がストレートに出されている曲と言われており、「どんなに辛くてもどこかに必ず自分を思ってくれている人がいる」というのが基本テーマである。歌詞の内容は3部構成となっており第1節目はブルース歌手でありダニーに多大な音楽的影響を与えた祖父に対する尊敬と感謝の気持ち、2節目は10代の時に散々悩ませ今は全く疎遠となった両親に対する後悔の気持ち、そして3節目が「My terror twin」と歌われるアスキンのギタリストのベン・ブルースに対する絶対的な信頼と友情の念という非常にエモーショナルなもので、その歌詞の内容に呼応するかのようにポップでメロディアスかつ大陸的なスケールと大らかさを持つサウンドは、ヘヴィーでアグレッシブな楽曲で構成されるこのアルバムにおいて清涼剤的な役割の曲となっている。

ASKING ALEXANDRIA - Someone, Somewhere
元々アスキンはスクリームがどんなにブルータルでもクリーンの部分が妙にキャッチーで明るいハードロック調でそこがアメリカ受けしてるところだろうけど、現在彼らがツアーで「Reckless~」から取り上げる唯一の曲がこの「Someone, Somewhere」なところを見ると、本人たちもとりわけ思い入れのある曲なんだろうと思う。実際この曲には色んなバージョンがある。アルバムバージョンはダニーが現在のハスキーな声に変わる前の若々しいクリーンヴォイスで歌われているが、下の動画のようにアコースティックバージョンも複数ある。これは「Reckless~」リリースと同時期の頃の2011年の演奏で、ダニーも今のハスキー声に本格的に声変わり?する前の若さの残るボーカルながら終始低音で一生懸命渋く歌おうとしているのが微笑ましい。

Asking Alexandria - Someone, Somewhere Acoustic /w lyrics
ところが3rdアルバム「From Death To Destiny」リリース後の2014年になるとダニーの歌唱法がガラリと変わりほぼ現在と同じブルージーなハードロックのスタイルで歌い上げているのがわかる。この後ダニーは一度アスキンを離れWe Are Harlotで王道ハードロックを追求することになるのだけれど、この動画を見てもとにかくダニーがハードロック歌いたい気満々で、ギターのベンやキャメロンは後ろでニコニコしてるけど本当はこの時期ダニー本人とバンドの音楽的方向性の折り合いをつけるのにさぞかし大変だったんだろうな~と彼らの諸々の苦労を想像してしまう。

Asking Alexandria - Someone Somewhere (NEW ACOUSTIC VERSION)
これは2018年に公開されたアコースティックバージョンで、映像が沖縄の米軍基地のライブドキュメンタリーということもあっても全体的にアメリカンな雰囲気漂う大陸的で明るく爽やかな仕上がりとなっており、一応イングランド出身のバンドなのに英国オーラなど皆無である(笑)

ASKING ALEXANDRIA - Someone, Somewhere (Acoustic)
ここでのダニーのボーカルは同じ歌い上げ唱法でも以前のクラシックなハードロックスタイルからよりポップでソウルフルなテイストへと変化しているのが感じ取れるのだけれど、これを見ると古くからのファンの間では賛否両論の最新作「Like A House On Fire」(2020年5月リリース予定)からのいくつかの先行曲から伺えるポップ路線はある意味必然的な変化だったのだろうなと思われるのである。ダニーが以前ほどハードロックに対するこだわりがなくなったのか、それはWe Are Harlotで存分にやるからいいやとなったのか、とにかく今のアスキンにおけるダニーのスタンスは「そこに自分の歌える場があるから歌う」という割り切りみたいなのを感じてしまう。そういう意味では見かけに中身が追いついた、じゃなくて本当の意味で大人になったということなのだろう。しかし個人的にはまた攻めに攻めまくった路線も見てみたいのだけどね。

それでは締めの1曲として、ダニーの「Terror Twin」であるベン・ブルースがボーカルのアコースティックバージョンを紹介しよう。本職はギタリストなのだけど実は歌も上手い。落ち着いて癒される声質と繊細なギターが何とも美しい世界観を作り上げている。

ASKING ALEXANDRIA (Ben Bruce Acoustic) - Someone Somewhere
しかし何が一番ポイント高いって発音がちゃんとイギリス英語なんだよね(笑)やっぱりイギリス人はちゃんとイギリス英語で歌わなきゃだめだよ。似非アメリカ英語でカントリー歌うダニーはルーツを見失いすぎてあかん。次のアルバムは原点回帰でもうちょっとイギリスっぽいのにならないかな。