sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この1曲】The Style Council「Angel」(「The Cost of Loving」(1987) )

 

愛聴盤には2タイプあって、「大好きという自覚があって、事実何回も聞いてしまう盤」と、「そんなに好きという自覚はないのだがよく考えてみると何度も聴いている盤」というのがある。私にとってこのスタイル・カウンシルの3rdアルバム「The Cost of Loving」は後者に属するのだけれど、好きだという自覚のある2nd「Our Favourite Shop」よりもひょっとして聴いている頻度が高いかもしれない。一般的にはそれまでR&Bネオアコやジャズなど様々なジャンルのエッセンスを取り入れつつ独自の音楽性を確立しつつあったスタイル・カウンシル(以下「スタカン」)が既存のR&Bの様式をそっくり模倣してしまった失敗作として各音楽評論家からは一様にバッシングされたアルバムなのだけど、当時高校生だった私はこのアルバムがきっかけで長年愛聴してきたUKインディ~オルタナティブ・ロックを離れ一時期本場アメリカのR&B音楽に走ってしまったほどである(ちょうどジャネット・ジャクソンボビー・ブラウンが日本でもお茶の間レベルでブレイクしていた頃だったと思う)。

もっとも批判の根拠である「R&Bの下手な模倣」というのは建前で、実際はそれまでポール・ウェラーミック・タルボットによる「愉快な2人組」体制を敷いていたのにこのアルバムからいきなり(っていうか前々からその予兆はあったのだが)4人体制になって、当時ポール・ウェラーの奥方であったディー・C・リーのヴォーカルの比重が異常に大きくなった(アルバム最後の「A Woman's Song」で丸々ヴォーカルを独占してさえいる)あたりでジャム時代の硬派なイメージでポール・ウェラーを見ていたウェラー信者などは正直ついていけないものがあったんじゃないだろうか。まあウェラーの場合「硬派」というイメージがそもそもの間違いでジャム時代にも前カノのジル嬢とのツーショット写真がバンバン雑誌に載ってたし最初から硬派とはとても言い難かったけどな(←中学時代からファンをやるとこういうミーハーな視点になる)。


The Style Council - Angel

この「The Cost of Loving」収録曲の「Angel」は元々はアニタ・ベイカーのカヴァーなのだけれど、ポール・ウェラーはこれをディー・C・リーとの夫婦デュエットにしてしまいそのベタ甘な歌詞と相まって「勝手に2人でのろけてれボケ」と思わせるに充分な内容である。おそらくこの「ベタさ」を受け入れられるかそうでないかによってこのアルバムの評価は変わるのだろう。事実UKロック評論家の批判をよそに日本では最も売れたスカタン、じゃなくてスタカンのアルバムというではないか。どうもUKロック好きは黒モノが嫌い(またはその逆)、という一般的な傾向があるようでスクリッティ・ポリッティなども初期の「Skank Bloc Bologna」なんかが好きな人は後の大ヒット作「Cupid & Psyche 85」のことは嫌いという意見が多い。そういえばこの「The Cost of Loving」を貸してくれた高校の友人はジャムのことはあまりピンとこないと言っていた。正直な話私もポール・ウェラーはスタカン〜ソロ1st時代が最強でジャムは「The Gift」より前はリアルタイムでないので思い入れがないしソロも名盤「Stanley Road」はともかく「Heavy Soul」以降は当時の私には渋すぎて正直ついていけなかった時期が長年あった(一連のソロ作を頻繁に聴くようになったのはつい最近である)。「何だ結局ディー・C・リー最強なんじゃないか」とお思いの方もいると思うがその通りで、この夫婦の離婚はソロ初期にはまだ引きずっていた感のある「スタカン的なもの」に決定的な終止符を打ったという意味で個人的にはかなり打撃だったのである。ディー・C・リーのヴォーカルはパワフルさはないものの軽やかで優しく落ち着いた声質がスタカンの楽曲に知的で洗練された雰囲気を与えていたと思う。おまけに綺麗だったしな。2人の子供たち(ナットとリア)も器量よしでしかもどちらも親日家だし本当にありがたいのだけど、やっぱり「Angel」を聴くと2人の当時のラブラブ時代を思い出して切なくなるなぁ。