sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この一曲】Manic Street Preachers「Condemned to Rock 'n' Roll」(「Generation Terrorists」(1992))

今でこそKscopeとか現代プログレとかプログレッシブメタル周りのバンドばかり聴いているけれども、このブログのタイトルが示す通り私は元々マニック・ストリート・プリーチャーズのファンなのである。「プログレ否定のパンクロックの流れを汲むマニックスとポストプログレのレーベルのKscopeって全く相容れなくない?」と思われる人もいるかもだけれど、実際Kscopeの歌姫の一人であるThe Anchoressのキャサリン(Catherine Anne Davies)もマニックスの熱心な信奉者なのだからマニックスとKscopeの両方同時に好きという人は他にも案外いるんじゃないかと思う。そもそもマニックスのパンク的なアティテュードはリッチー・エドワーズが作り出したもので、ジェームズ=ディーン・ブラッドフィールドやニッキー・ワイアなどは元々ラッシュ(Rush)のファンで過去にもラッシュの「The Spirit of Radio」のパクリ、じゃなくてオマージュみたいな曲(「Journal for Plague Lovers」)を作ってるし音楽的にはさほどプログレ的なものを否定はしていないのではないか。そもそもスティーヴン・ウィルソンの「Hand.Cannot.Erase.」のタイトル曲だってマニックスの「(It's not War)Just the End of Love」そっくりだったしな(←まだ言ってる)。元々マニックスの作品が持つメロディアスかつどこか感傷的でメランコリックな世界観は多くのKscopeアーティストたちの作品が持つ世界観と親和性が高いのだろうと思う。特にAnathemaの「Untouchable pt.1」などはジェームズが歌ってても全く違和感ないのではないか。最近はマニックスとも共通のファンの多いマンサン(Mansun)のポール・ドレイパーもKscopeに移籍してきたし、この辺の「既存のジャンルを超えた、叙情的で耽美で感傷的でメランコリックな音楽」が今後ますます充実していくのが楽しみである。

と前振りが大分長くなってしまったのであるが、そんなマニックスに私が本格的にはまったきっかけとなったのが1st「Generation Terrorists」(以下GT)の本編最後を飾る「Condemned to Rock 'n' Roll」である(実際は盤によってこの後に異なるボーナストラックが入っている)。GTはガンズ&ローゼズを始めとする80年代HR/HMやグラム・メタルに影響を受けたアルバムで、音だけ聞いただけではイギリス(正確にはウェールズだけど)出身とはイメージできない大陸的な明朗さを持つキャッチーなメロディーのハードロックが特徴であるが、メジャーコードばかりのGTの中にあってこの曲だけが唯一のマイナーコード曲なのと、6分間の演奏時間のうち計3分近くギターソロを含むインストパートなのが色々と異質な所である。当時のマニックスグラムロックやパンクにインスパイアされた派手な服装とやたら難解な歌詞と「4REAL」事件を始めとする過激な言動により他の同時代にデビューした有象無象の新人バンドと一線を画す存在感を放っていたが、肝心の演奏がヘタクソで特にリッチーなどはギタリストと名乗ってるくせに殆どギターが弾けなかった(本人も「別に上手くなりたいとも思わない」と言っていたと思う)ぐらいなのだから、そんな彼らがこの曲で目一杯本格的なHR/HMをやろうとする姿に妙な感動を覚えたものである。当時まともに楽器が弾けるのはジェームズだけと言われていたのだが、この「Condemned~」において「俺ら歌詞だけじゃないぞオラ」と言わんばかりに延々とアピールされるギターソロはマニックスの楽曲担当であったジェームズの意地でもあるんだろう。それどころかドラム以外のパートを全部ジェームズが弾いてるんじゃないかぐらいの勢いだ。マンサンの「Six」にも言えるのだがこういう、演奏力よりセンスとアティチュードとアイデア勝負の性格の強いオルタナティブ/インディーロック出身バンドが一定レベルの演奏能力を要求するメタルやプログレに果敢にチャレンジする姿勢は既存のジャンルの枠内に要領よく収まっているバンドよりも勇気があるし、その勇気に惹かれるリスナーも多いんじゃないかと思う。当時「全世界でNo.1になる2枚組アルバムを出して解散する」という例の「解散宣言」に「カッコいいまま消えることの美学」を期待していたファンも少なくなかったけれど、この「Condemned~」には「バンドを自分たちのシリアスなキャリアとして続けたい」という彼らの本音が現れていたように思えてならない。

とはいえこの曲がスタジオ技術を駆使して録音されたものであることは聴けば誰でも丸わかり(ギター2本聞こえるけどリッチーが弾けるわけないし)であったからこの曲がライブで再現できるとは当時到底考えられず実際ライブで演奏されることは数年前まで殆どなかったと記憶している。10年ぐらい前ぐらいから曲の一部をジェームズがアコースティックで演奏したりしていたが、バンド形式でフルで演奏するようになったのは恐らくここ2,3年ぐらいであろう。下の動画は2015年のカーディフ城ライブの時の演奏である。


Manic St Preachers - condemned to rock and roll - Cardiff Castle 5/6/15

ヘタクソ時代のマニックスを知る者としてはこの曲がちゃんと本人たちの演奏で再現されているのを見るだけで嬉しくなる。「この曲がやっとライブでできるようになったんだ凄いじゃーん」ってなものだ(笑)。時折高音域の所でキーを落としたり裏声を使ってはいるが殆ど元曲に忠実な演奏でこれが日本でも聴けたらマジで号泣するかもしれない。「いい歳してマジ泣きするとか痛すぎる」って思うかもだけどいざ始まったら多分マジ泣きするオジサンオバサン続出だよ?