sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この一曲】Mansun「Forgive Me」(「Little Kix」(2000))

作品だけ聴けば充分に良い作品なのにその作品の背景やアーティスト本人が否定的立場をとっているために何となく微妙な評価をされているアルバムというのがあるが、マンサン(Mansun)の3rdアルバム「Little Kix」もその1つである。プログレッシブ・ロック的要素をふんだんに盛り込むことでブリットポップブームの余韻が色濃く残っていた当時のUK音楽シーンに多大なインパクトを与えた前作「Six」の複雑怪奇さとは全く対照的に、「Little Kix」はシンプルで洗練された音作りと物悲しくも美しいメロディーが特徴的なバラード主体のクラシックなポップアルバムである。歌詞もそれまでの比喩や皮肉に満ち溢れた作品群とはうって変わって何のひねりもないストレートなラブソングが多く、当時はこの唐突な路線変更について「ポール・ドレイパーの個人的な経験に基づいてる」と説明されていたために一般的には「ポールの失恋」がテーマのアルバムとされているのだが、この説明に当時から何らかの引っ掛かりを感じていたファンは少なくなかったと思う。「ポールに彼女がいたなんて」とショックを受けた女性ファンもいただろうけどそれ以上に私は「本当かよ?」と思ったものである。何故なら本作の1年前にリリースされたブラーの「13」がまさに「デーモン・アルバーンジャスティーン・フリッシュマン(エラスティカ)の別離」がテーマだったので、本作におけるポールのエピソードは物凄く二番煎じ感を受けたものである。ブラーもマンサンと同じパーロフォンの所属だったし会社の側がその路線で売ろうとでも思ってたんじゃないだろうか。また本作リリース当時のメンバー達の発言も「Little Kixは前2枚とは全く無関係だ」「前2枚と違うタイムレスなアルバムを作りたかった」「スモーキー・ロビンソンのような曲を作りたかった」の一点張りでどこか不自然というか腑に落ちない点が多く、どこかバンドの方向性に一抹の不安を覚えたものだった。最近になってポールは複数のインタビューで本作の制作背景について「レコード会社からSixの時みたいなプログレ要素は一切入れるなと厳命された。だからあんな作りになってしまった」と相当不満を露にして語ってるが、当時本作のテーマであったはずの失恋の事は全く触れてないので、失恋ネタはウソか、ウソでなかったとしてもLittle Kixでの唐突な路線変更の直接的原因ではなかったのだろうと推察される。恐らく多くのマンサンファンがこの作品を素直に受け入れられないのは(1)前作からの路線変更があまりにも唐突すぎるしその理由もどこか不自然(2)本作の作風がポールが自ら進んで選んだ路線でないのが曲群からも透けて見える、というのを直感的に感じ取っていたからじゃないかと思う。大体ポールみたいなメンタリティーの人間が失恋した時にあんなどストレートな甘甘ラブソング集など作るだろうか?ブラーの「13」なんか比じゃないダークで訳のわからんアバンギャルドな作品(しかも1曲30分以上)になるに決まってるよ(←そっちのほうが面白いなと今書いて思った)。
とはいえ、冒頭に書いた通り制作の背景を抜きにすればLittle Kixは作品としてのクオリティは充分に高いと思う。レコード会社からの「プログレ要素は一切入れない」という制限の中で精一杯ベストを尽くした作品と言えるだろう。ファンには今一つ素直に受け入れられない(?)ラブソング群は恐らく(当時メンバー達がさかんにスモーキー・ロビンソンを引き合いに出したように)かつてのモータウンのヒット曲のようなシンプルさを意識したのだろうと思う。これは無理矢理ポジティブな見方であるが本作は、前2作の随所に見られたギミックを一切排した、素のメロディーだけで人を惹き付けられる曲が書けることを証明した作品であり、ここで聴けるポールのヴォーカルもよく伸びる豊かな低音が特に素晴らしく、リスナーをして彼が一流のメロディーメイカーでありシンガーであると確信させるに充分な作品であると思う。ポールは度々「Little Kixは出すべきじゃなかった。Spooky Action(←ポールのソロ1st)こそが真のマンサンの3rd」と言うのだけれど、Little Kixもまたマンサンの音楽性を形成する一要素であり、この路線の延長にSpooky ActionやThe Anchoressの1st(収録曲の大半がポールの共作)があると思うので、あんまり否定してもらいたくないなぁというのが正直な気持ちである。

Mansun - Forgive Me
でも本作リリース当時、収録曲の「Forgive Me」を聴いて「これが一番許せないよね」と妹と言ってたのも事実。だってこれカルチャー・クラブみたいじゃん(笑)「Forgive Me」などと予め予防線張ってそうなタイトルなのも気に入らん。いや、曲自体は好きなんですよ?曲の終盤でビートルズのCome Togetherみたいなギターをこっそり忍ばせているのも彼らの反抗心が感じられていい。でもいつ聴いても後でボーイ・ジョージの声で脳内再生されちゃうんですが。