sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この1曲】Paul Weller「Earth Beat」(「On Sunset」(2020) )

「On Sunset」はポール・ウェラーのソロとして15枚目のアルバムである。「そんなにたくさん出してたのか」というのが正直な気持ちだ。私自身が途中でUKロックを全然聴かなくなった時期があったので作品のいくつかが記憶から抜け落ちているのだと思う。比較的コンスタントにアルバムを出しているマニックスでさえ直近のアルバム(「Resistance Is Futile」)が13枚目なのだからポール・ウェラーがいかに多作で勤勉かがわかるだろう。風貌もジャムやスタカン時代の端正で若々しくかつ一切の妥協を許さない生真面目な青年風からすっかり変わってしまった。還暦を過ぎ心身ともに円熟の境地といえば聞こえはいいが真っ白な長髪に深い皺が刻まれた風貌はまるで仙人のようだ。「On Sunset」というタイトルは昨年ロサンゼルス在住の長男を訪ねたときに40年前にツアーで訪れたサンセット・ストリップの光景を思い出したことに由来しているそうだけれども、最近のインタビューにおける「mortalityへの意識が強くなった分、やれるうちは仕事をしていたい、クリエイトしたいという思いが強まったのかな。だってそれができなくなる日はいずれ俺にも訪れるわけだから」という発言からしても「夕暮れ」という意味のsunsetと重ね合わせているだろうことは容易に想像がつく。自身の老いを受け容れ今ある日々を楽しもうとするウェラーの姿勢は大いに尊敬できる一方で、「まだ老け込むのは早いぞ」と思ってしまう。何と言っても彼の一番下の子供はまだ3歳なのだ。頑張って長生きしてこれからもたくさんアルバムをリリースしてもらいたいものである。


Paul Weller | Earth Beat (Lyric Video)

「On Sunset」の先行公開第1弾の「Earth Beat」を初めて聴いたときに真っ先に思ったのは「何だこれスタカンじゃん」というものだった。「22 Dreams」以降、サイケデリックロックやエレクトロニカ等それまでジャムやスタカン時代とは全く異なるタイプの音楽に果敢にチャレンジしていたウェラーが古巣の?ポリドールに移籍したのをきっかけに原点回帰を図ろうとしたのかもしれない(ミック・タルボットも参加しているし)。しかしジャムやスタカン時代含めこれまでの作品がある特定の音楽スタイルをそのまま拝借してメロディーを乗っけていたような曲が多かった印象があったのに対し、「On Sunset」で聴かれる曲群はもっとリラックスした、ウェラーの中に元々あった音楽性をそのまま取り出したような自然さが感じられるのが特徴だと思う。「Earth Beat」もスタカン時代の「ソウルをやってみました」的力みがなくこれまでウェラーが歴代作品の中に取り入れてきたソウルやフォークやエレクトロニカなど様々なエッセンスを自分の音楽として消化しきっているためとても聴きやすい。日本でも本国でも「ポール・ウェラーはジャムとソロはいいけどスタカンは苦手」という人が残念ながら多いのだけど、スタカン時代の実験や試行錯誤があったからこそその後のソロ作品における音楽的語彙に豊かさが加わりウェラーの楽曲をユニークなものにしていると私は思っている。っていうかウェラー自身まだスタカン大好きでしょ。来月末にリリース予定の「Long Hot Summers: The Story of The Style Council」の共同編纂にも関わっているし。スタカンからウェラーのファンになった私は嬉しいけれどジャム派が圧倒的に多い本国のファンはどう思うんだろう。あとやっぱりスタカンといえばカプチーノ・キッド(Paolo Hewitt)だよなぁ。前記事の通りパオロ・ヒューイットとは10年以上前に交流が絶えているけれども、かつての同僚ブルース・フォクストンやミック・タルボットが近年の作品に参加しているように彼ともまた何らかの形で再び関わってくれるといいなと思っている。