sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Dreamtime」The Cult(1984)

80年代半ばの英国ロック界において、現在ではほとんど死語となっている「ポジティブパンク」というジャンルがあった。今はこの辺のバンドは「ゴシックロック」と言われているけれど、当時から「ゴシックロック」と言われていたバウハウスやシスターズ・オブ・マーシーよりも少し下の世代のバンドを指した用語である。「パンクとポジティブって矛盾してない?」と思ってしまうのだけど、83年にNME誌が当時勢いのあった新人たちをまとめて「ポジティブパンク」と呼んでいただけで別に音楽性に共通点があったわけでもなんでもなかったのでこの徒花的なジャンルはすぐに衰退してしまった。しかし彼らの多くが持っていた耽美・幻想・退廃的世界観(←どこがポジティブだ)は当時の日本のインディーシーンにも多大な影響を与え、現在の日本のヴィジュアル系バンドに受け継がれているのではないかと思う。前にポール・ウェラーの長男のナットが日本のヴィジュアル系の大ファンという話を聞いて「自分の国に元祖みたいなのがあるじゃん」と思ったものだけれど、まあナットの生まれる前の話だし仕方がない。

そのポジティブパンクから出発して後にメインストリームのハードロックバンドとして大成功を収めるのがこのザ・カルトなのだけど、カルトの音楽を特徴づけているのは何といってもイアン・アストベリーのヴォーカルである。デビュー当時からサザン・デス・カルトが他のポジパンのバンドと一線を画していたのはこのイアンのコブシを効かせまくったダイナミックなヴォーカルといっても過言ではない。基本的にはあーこりゃツェッペリンオタだなと丸わかりな歌唱法なのだが後にはザ・ドアーズの再結成ライブでジム・モリソンのそっくりさんをやってしまうのだからずいぶんと器用なものである。こういう、歌唱力に定評があり自身も歌唱力に自信のあるヴォーカリストはさほど演奏技巧を要しないパンクやオルタナティブロックよりもハードロックやメタルみたいなものをやりたがる人が多いのだけどデビュー時の音楽性でファンになった人にとってはその後のバンドの「ジャンル違い」レベルの音楽性の変化についていけず「昔のほうがよかった~」と愚痴りたくなるのも気持ちとしてよくわかる。80年代半ばはHR/HMLAメタルなどで一大ブームだったしカルトの音楽的変化も当時の流行りに乗っかった感もあったかもしれない。

Dreamtime

Dreamtime

  • アーティスト:Cult
  • 発売日: 2007/05/21
  • メディア: CD
 

 そんなカルトのデビュー作がこの「Dreamtime」である。リリース当時は「夢を見るだけ」といういかにもポジティヴパンクな邦題が付いていた。メンバーのルックスもヒラヒラの衣装&カラフルな髪の色&お化粧バリバリで今となっては黒歴史である。でもその宣材写真とアルバムジャケット(上のデザインと若干違っている)に妙に惹かれるものがあり当時中学生だったわたしは広告を前に数日迷った挙句全く音も聞かないでこのアルバム(まだLPだった)を買ってしまったのだがこれが意外に大当りで感動したものである。キャッチーなメロディーのストレートでダイナミックなロックで、いかにも「ポジティヴ」な感じだったので他のポジティヴパンクバンドもこんな感じかと期待してダンス・ソサエティジーン・ラヴズ・ジザベル、エイリアン・セックス・フィーンドのアルバムを買いまくったがそれぞれ音楽性が全く違いすぎてそれもまた面喰らったのだった。カルトのデビュー作「Dreamtime」は今聴くとイアンのヴォーカルに対しまだビリー・ダフィーのギター演奏力がついていけてなくてパンクバンドが一生懸命ハードロックやってます的必死感にあふれているものの、プロデュース陣の骨太かつ厚みのある音づくりが当時の彼らの演奏能力の未熟さをうまくカモフラージュしている。その後彼らが向かっていった音楽性があまりにもクラシックなロックンロールすぎてデス・カルト〜「Dreamtime」の頃のUKネオサイケっぽいのが好きだった私は「え~そっちに行っちゃうの~?」とついていけなかったのだけど、今になって例えば「Wild Hearted Son」みたいな後期の曲を聴くとやっぱりカッコイイと思ってしまうし「Sonic Temple」は文句なしにハードロックの名盤だ。これは全く余談だけど、マニック・ストリート・プリーチャーズのデビュー作「Generation Terrorists」のプロデューサーにスティーヴ・ブラウンが起用されたのは当時パンクからハードロックへその音楽性を変えようとしていたマニックスにとってかつてカルトがポジティブ・パンクからメインストリームなロックへの転身を図るきっかけになった大ヒット曲「She Sells Sanctuary」のプロデューサーを起用することが彼らの理想にかなっていたことは容易に想像できると思う。何といってもカルトはアメリカツアーの際にはブレイク寸前のガンズ&ローゼズを前座にしていたこともあったからガンズ大好きを公言していた当時のマニックスにしてみれば超うらやましかったんじゃないかな。「そのうち後出しジャンケン大好きなニッキーが「実は昔からカルト好きだったんだよね」とか言い出すんじゃないか」と思っていたけれど数年前に本当に学生の頃の思い出の曲に「She Sells Sanctuary」を挙げてて笑ってしまった。こういうのは初期のマニックス時代にはなかなか言えなかったことだよね。