sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Some Friendly」The Charlatans(1990)

シャーラタンズは英国ノースウィッチ出身の、マッドチェスター・ムーブメント全盛期に登場し、現在も根強い人気を持つUKロックバンドである。マッドチェスターというのはストーン・ローゼズハッピー・マンデーズ、インスパイラル・カーペッツなどマンチェスターおよびその近郊出身の、サイケデリックサウンドと独特のグルーヴ感を持つロックバンドのブームであり、これらは80年代後半のUKロックシーンに漂っていた閉塞感をぶち破る新世代バンドとして熱狂的な人気を集めていた。当時は「マンチェスター出身」というだけでNMEやらメロディーメイカーなど英国の大手洋楽雑誌にも取り上げられる雨後のタケノコ状態でシャーラタンズもその一つだったのである。私がシャーラタンズを知ったのは大学生の時、洋楽に詳しい同級生から「これ聴いてみて。渋谷(陽一)の番組で『インスパイラル・ローゼズ』って言われてたよ(笑)」とその番組でかかっていた「Then」という曲の録音をウォークマンで聴かせてくれたのが始まりだったのだけど、本当にインスパイラル・ローゼズであった。つまり、インスパイラル・カーペッツのオルガンにイアン・ブラウンの声がのっかっているような曲であった。当時日本の評論家筋におけるシャーラタンズの評価というのは、お世辞にも大絶賛というのではなかった記憶がある。渋谷陽一には番組の中でNew Fast Automatic Daffodilsと比較されて「シャーラタンズなんかよりこっちのほうが全然いいですよ」などと言われるし、児島由紀子女史などは当時彼女がお気に入りだったライドの曲と同名の曲がシャーラタンズにもある(もちろん中身は別物)というだけで「こんなもののどこがいいんですか」とシャーラタンズをけちょんけちょんにケナしたのである。これには私も「デビューしたての新人をそこまでケナすことないじゃんか」とイラっと来たものだ。それだけに彼らのデビューアルバムである本作「Some Friendly」が全英チャート初登場1位を獲得した時は内心ざまあみろとすら思ったものである。

Some Friendly (Reis)

Some Friendly (Reis)

  • アーティスト:Charlatans
  • 発売日: 2007/05/29
  • メディア: CD
 

 本作はマッドチェスター・ブームの産物というべきアルバムだが、内容は非常に濃い。おそらくのこの時期にデビューしたバンドのアルバムの中では頭一つ抜きんでる出来なんじゃないかと思う。シングル曲「The Only One I Know」「Then」は勿論、アルバムの冒頭を飾る「You're Not Very Well」、アシッドなインスト曲「109 pt2」やダンサブルな「Polar Bear」(ライドと同名異曲というのがこれ)現在でもライブのラストに演奏されることの多いアルバム最後の曲「Sproston Green」など、キャッチーでポップな曲がそろっている。当時シャーラタンズというとロブ・コリンズのキーボード(ハモンド・オルガン)に話題が集中していたが、やはりキーボード中心バンドであったインスパイラル・カーペッツよりシャーラタンズのほうがリズム隊がタイトで全体的に演奏力が高いと感じる。デビュー当時はボーカルのティム・バージェスのルックスとキャラクターでアイドル的な扱われかたもされていたバンドだけれど、マッドチェスターの終焉で行方不明になることなく英国ロックの次の一大ブームであるブリットポップ期においても「Tellin' Stories」という名盤を送りだせたのは、彼らの時代を読むセンスと手堅い演奏力のおかげなのだろう。そもそもベースのマーティン・ブラントは80年代にMakin' Timeというモッズのバンドをやっていたから、オアシスやブラーなど当時モッズ好きを公言していたブリットポップのバンドよりもずっと前から「モッズ」だったのである。そのブリットポップ期からシャーラタンズを聴くようになったファンにとっては「Some Friendly」は少々キーボードがうるさく感じられるかもしれないけれど、サイケデリックサウンドとグルーヴ感といったマッドチェスター特有のスタイルを持ちつつもキャッチーで印象的なメロディーを持った曲が多く「Tellin' Stories」と並ぶ彼らの代表作だと思う。これからシャーラタンズを聴いてみたいけど何から聴けばいいか迷っている人にも自信を持って勧められるアルバムだ。

しかし最近のティムの金髪マッシュルームカットは似合わないと思うんだよね。何だかバードランドみたいじゃん。誰だよバードランドってと思った方は今後の記事に期待していてください。