sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Nevermind」Nirvana(1991)

世の中には「メジャー過ぎて今さら買うのが何となく恥ずかしく思えるアルバム」というものがあるが、私にとってはニルヴァーナの2nd「Nevermind」がそれに当てはまる。ニルヴァーナは1stの「Bleach」と3rdの「In Utero」はCDで持っているのに肝心の「Nevermind」だけはCDで持っていない。学生時代、CDを買いまくるほど無尽蔵にお小遣いを持っていなかった頃はレンタルCD屋や友人などからCDを借りて、それをカセットテープに落としたものを聴いたものだが、後に社会人になってCDで買い直した音源も多々あるにもかかわらず「Nevermind」とメタリカのいわゆるブラックアルバムは「今さら感」があり過ぎて店頭でCDを買うのがどうにも気恥ずかしかったのである。多分店員から「あー要するにミーハーちゃんね」という目で見られるのを極端に恐れていたのだろう。よくよく考えてみたら店員だっていちいちそんなことを考えてられないと思うのだけれど、若い頃の私はそれほどまでに自意識過剰だったのである。

よくバンドの宣伝文句として「音楽シーンを変えた」という形容があるが、本当の意味で音楽シーンを変えてしまったバンドというのは長いロックの歴史の中でもそんなにいない。その数少ないバンドがこのニルヴァーナである。言うまでもなく彼らは「グランジ」というジャンルの代表的なバンドであるが、ニルヴァーナの凄さというのは、彼らの登場以降それまでメインストリームにあった既存のHR/HMバンドを一気に時代遅れにさせてしまったところだ。グランジオルタナは米国ロックシーンの一大ブームとなり、往年のメタルの大御所と言われたバンド達が次々とオルタナグランジの様式にただ乗りしたような作品をリリースしてはファンを戸惑わせたものである。ニルヴァーナグランジが一部(どころか大半)のメタラーから親の敵のように嫌われても仕方がない。しかしグランジの影響を受けたのは本国アメリカだけでなくそれまでマンチェスターシューゲイザーだと賑やかだったUKロック界も同様で一時期はNMEやメロディーメイカーの表紙がこの系のUSバンドばかり(唯一盛り上がっていたUK組はスウェード)で「一体これはどこの国の音楽雑誌なんだ」と思ったほどだ。それぐらいの影響力を(図らずも)持ってしまった故にフロントマンであるカート・コバーンの抱えるプレッシャーは常人の想像を超える凄まじさであったに違いない。「Nevermind」の次のアルバム「In Utero」が前作と対照的にダークで内省的な作風となったのは当然の帰結であっただろう。

ネヴァーマインド(SHM-CD)

ネヴァーマインド(SHM-CD)

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いま改めて聴き返してもこの「Nevermind」は最初から最後まで一気に聴き通せる捨て曲一つとしてない異常なまでの完成度で感心してしまう。当時グランジを表現するのによく「殺伐系」という言葉が使われていたが、前作「Bleach」のダークな密室感とは対照的に殺伐さを残しつつ開放的かつ力強く骨太のサウンドに仕上がっているのが見事である。キャッチーでありながら一筋縄ではいかない独特のメロディーが、このアルバムを時代を超えた傑作としているのだと思う。実際上に書いたような革命的といえる一大ブームを引き起こしたわけだけれども、その後のカートおよびニルヴァーナの辿った道を思うと、「Nevermind」は呪われた、とまでは言わないが何やら「業」を抱えたアルバムと言わざるを得ない。もしも本作がこれほどまでに大成功しなかったら、ニルヴァーナがここまで時代のカリスマとして祭り上げられなければ、カートは過度のプレッシャーに苛まれることなく今も音楽活動を続けていたかもしれないと思うと時代の偶然というのは時として残酷なものになり得るのだと痛感する。リリース後30年経った現在では既に「流行り物」ではなく、かつダウンロードやストリーミングで音源が手に入るので店員の目を気にする必要がなくなったから、私もそろそろこのアルバムをきちんと買ってこれからも度々聴こうと思う。