sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Effloresce」 Oceansize(2003)

00年代に入ってから急速に音楽のトレンドから離れてしまっていた。ブラーはグレアムが脱退するし、マンサンスマパンは解散するし、細々とマニックスは追っていたがそれよりも昔中高生時代に夢中になって聴いていた80年代バンドの作品を買いなおしたり、デヴィッド・シルヴィアンのソロ作品を遡って聴いていたことのほうが多かったような気がする。00年代デビュー組で唯一熱心に聴いていたのがなぜかメタル畑のBullet For My Valentineという有様。それ以外の動きについては本当に浦島状態だったのである。

ここに取り上げるOceansizeというバンドは自分が知らない間にデビューし、これまた知らない間に解散してしまったバンドである。このバンドの存在に気付いたのは今から3ヶ月前で、しかも実に回りくどいきっかけ(←マニックスの連中がラッシュとの対談でBiffy Clyroに言及していたためiTunesで試聴していた時にBiffyの関連アーティストとして発見)でたどり着いたものである。一聴して「何だかポーキュパイン・トゥリーっぽい」と思って調べてみたら実際にPTのツアーサポートをやっていたばかりでなく何とPTのオフィシャルHPからフツーにバンド公式HPへのリンクが張られていた。それだったら最初からPTつながりで探したほうがはるかに楽だったじゃないか。この辺にも関連アーティストを網羅的に取り上げることで洋楽ファンの興味を掘り起こしてきた洋楽誌の衰退の影響が感じられる。

Effloresce

Effloresce

Oceansizeは、「マンチェスター出身」「ベガーズ・バンケット所属」というプロフィールからイメージされるものとは全く異質な音楽性を持つバンドである。カテゴライズの非常に難しいバンドと言われているがとても大雑把に言ってしまえば「プログレ+グランジシューゲイザー」である。中でも1st「Effloresce」はグランジっぽいというか大陸的な感触がある。イギリスのバンドなのにアメリカっぽい空気を感じるのが新鮮と映るか違和感と映るかはリスナーの好みに因るのだろう。

このバンドの特徴は長尺な曲が多いところだ。特に3rd「Frames」などは一番短い曲で6分半、トータルで77分という超大作である。しかし全くダレないのである。大抵のバンドはアルバムを聴いている途中で「今何曲目かな」と確認したくなるのであるがOceansizeに限ってはそのようなことがなく「いつの間にか最後の曲が終わってた」という感じなのだ。変拍子と転調を多用しつつさらに3本のギターからなる音の洪水に最初から最後まで圧倒されっぱなしだ。「Oceansizeの世界観を表現するのに必要充分な長さ」といえるだろう。その原点となるのがこの1st「Effloresce」だ。この次のアルバム「Everyone into Position」ではより楽曲のスタイルの多様性が広がっていくのだが、「Effloresce」は逆に多様なスタイルの音楽を全て飲み込むような混沌とした世界観で統一されていてまるでアルバム全体が1曲のような錯覚を覚える。

実はこのバンド、来日はおろか日本盤すら全く出ていない。日本盤が出ないので洋楽誌も取り上げようがなかったのだろう。本国でも決してメジャーな売れ方ではなかったらしい(曲がいちいち長すぎるのでラジオにかかりにくいからではという意見を見たことがある)ので日本のレコード会社もスルーしちゃったんだろうか。しかしこれが90年代であれば本国での知名度に関係なく日本に売りこむ力がまだレコード会社に残ってたんじゃないかと思う(少なくとも「マンチェスター出身、ベガーズ・バンケットの新人」というだけでも充分なアピールになったはずだ)。あるいは独自の感性と熱意を持った音楽ライターがレコード会社を動かすこともできたはずだ。Oceansizeを日本でしっかり売ることができなかった事実ひとつとっても現在の日本の洋楽市場の衰退は明らかだ。実に嘆かわしいことである。