sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Tako Tsubo」L'Impératrice(2021)

私のフランスに対するイメージは実にとりとめがない。好きなバンドもダフトパンクだったりIAMだったりGojiraだったりジャンルもめちゃくちゃだ。それでも中学生の頃は「オリーブ」という雑誌に洗脳されて「私もリセエンヌ(→フランスの女子高生)っぽくなりたい」と憧れたものである。社会人になってからも「マリ・クレール・ジャポン」のパリ特集号みたいなのが出る度に買っていたから結構好きだったのだろうと思う。その割に日本の文化人たちが礼賛する「おフランス」的なものに抵抗を感じていたのも事実で、初めてのパリ旅行でユーロスターから入ったパリ北駅の殺伐とした景観に衝撃を受けつつも「実はこういうのがリアルなパリなんじゃないか」と大いに興味を持ったものである。その後フレンチ・ラップやヒップホップのCDを随分買ったものだけど、どれもUSラップの「イェー」の代わりに「ウェー」というのが面白かった。後に「ウェイ系」という言葉を目にして「フレンチ・ヒップホップを聴く人たちのことかな。そんなに日本でも流行ってるのかな?」と真面目に思ったものである。日本で根強い人気のフレンチポップにあまりハマらなかったのは、ボーカルが私が好みとする骨太パワフル系ボーカルとは対極にあることと、その辺のジャンルと親和性の高い「渋谷系ブーム」に何となく胡散臭いものを感じていたからかもしれない(←中心人物の某氏のいじめの件とは関係はないです念のため)。

Tako Tsubo

Tako Tsubo

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 L'Impératriceはパリ出身の6人組のポップバンドである。しかし歌詞がフランス語である以外はあんまり「フレンチ」っぽさはない。強いて言えばアメリカやイギリスのバンドがオシャレ要素として取り入れる「フレンチ」テイストであり、万人に聴きやすい反面「本場のフランスらしさ」を期待する人にとっては物足りないかもしれない。初期のEPや1stアルバムの「Matahari」のタイトル曲など70年代~90年代ディスコっぽい曲がいくつかあるため「ディスコバンド」という紹介をされることも多いが、この2ndアルバム「Tako Tsubo」はディスコの要素は殆どなくフレンチポップというよりは70年後半~80年代前半あたりのAORやシティポップのような、どこか懐かしさを感じさせる楽曲が揃っている。タイトル名は激しい感情的ストレスに起因する「たこつぼ心筋症(tako tsubo syndrome)」から来ているらしいが、アルバムジャケットの「帯」を連想させるデザインといい、どこか日本を意識しているような気がしてならない。実はこのアルバムを聴いて浮かぶ光景はパリではなく東京、しかもまだ人々が幸福と希望に満ちていた時代の(そして私が「リセエンヌになりたい」と妄想していた時代の)「80年代の東京」なのである。日頃は今住んでいる場所が大好きで「もう東京には帰らなくていいや」と思ってるぐらいなのだけどこのアルバムを聴くと「うわ東京でこれを聴きたい」と思ってしまうのは不思議な感じである。このバンドはボーカルのFlore Benguiguiが「紅一点」ということで何かとそのイメージで本人やバンドを語られることに「私はお飾りじゃない」と度々不快感を表していて、前回の記事で取り上げたThe Anchoressの2ndと共通するメッセージ(←男性優位の音楽業界における女性アーティストの居心地の悪さ)が感じられるのだけれど、「女帝」という意味のバンド名といいFloreのルックスの良さといいメディアがついついそういう扱いをしたくなるのも仕方がないだろうなぁと思ってしまう。他のメンバーはよくわからんヒゲのオッサンたちだしな。「あんたはそっちが好物でしょ」と言われれば否定しないんだけどさ。