sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Voulez-Vous」ABBA(1979)

ティーヴン・ウィルソンがこの前の11月に来日した時に、ライブのMCでポップミュージックの素晴らしさを散々説いた挙句に世界最高のポップバンドとしてビートルズABBAを挙げたり、客席を見て色んなバンドのTシャツを着ている人がいると言って自分のファンの音楽的な多様性をアピールした後に「明日来るときはABBAのTシャツ着て来てね」と言っていて、「本当にABBAが好きなんだなぁ」と思ったものである。私にとってABBAビートルズと同様、洋楽に本格的にはまる小学4年の頃に音楽好きの叔父を通して父からレコードを貰ったりして知ったもので、当時洋楽と言えばアメリカかイギリスのイメージしかなかったから、ABBAスウェーデン出身と聞いてへぇ~と思ったものである。今でこそスウェーデンといえばスウェディッシュポップありのプログレ入ったデスメタルありの音楽大国のイメージだけれども、ABBAが登場する前は殆どの音楽ファンにとって「スウェーデンって一体どこ?」って感じだったのではないだろうか。ABBAスウェーデンでどれぐらい偉大な存在かというと、今から7年前ぐらいにストックホルムのアーランダ空港に入ったときに出口に向かうまでの通路の壁にスウェーデン出身のスポーツ選手やら映画俳優やら誰でも知ってる有名人のパネルがズラズラならんでいるところの、最後の一番大きい場所を占めていたのがABBAだったのである。「うわ、ABBAがトリじゃん」と思ったものだ。ABBAの凄さというのは、とにかく国やジャンルを超えた色んなバンドやアーティストに影響を与えている所だろうと思う。多分80年代後半に大流行りしたユーロビートの源流はABBAにたどり着くのだろうしストック・エイトキン・ウォーターマンが手掛けたカイリー・ミノーグの曲群を聴けばABBAの影響は丸わかりである(ピート・ウォーターマンABBAの熱心なファンであるらしい)が、この辺のメジャーなダンスポップばかりでなく先ほどのスティーヴン・ウィルソンや何とリッチー・ブラックモアのようなHM/HR畑のアーティストまでがABBAの熱狂的なファンであることを公言していることである。ただ、ABBAの作品にはポップでありながらどこかクラシック音楽にも通じる端正さがあり、そこが数々のオーケストラに演奏されたりリッチーみたいなクラオタを惹きつけたのだろう。スティーヴン・ウィルソンについてはプログレッシブ・ロックのカテゴリでありながら人を惹きつけるメロディーを大事にし非常にポップで聴きやすいところにABBAの影響があると思っている。

Voulez-Vous: Deluxe Edition

Voulez-Vous: Deluxe Edition

 

ABBAでお勧めは?と聞かれたらまずはベストアルバム「ABBA Gold」なのだろうけど、個人的に好きなのは6枚目のアルバム「Voulez-Vous」である。強烈でエキゾチックな雰囲気すらある華やかなディスコナンバーであるタイトル曲はじめ壮大なスケールと爽やかで美しいメロディーを持つバラード「Chiquitita」や「I Have a Dream」など、シングルカット曲だけでなくそれ以外の曲も冒頭のダンサブルな「As Good As New」から疾走感あふれる最後の曲「Kisses of Fire」まで欧州の空気を感じさせる洗練された都会のオトナのポップが揃っていて捨て曲のないアルバムである。当時「ABBAはヒット曲を自動的に作れる機械でも持ってるんじゃないか」と言われてたらしいけど、確かにこの時期のベニー&ビョルン(←ABBAの男性メンバー達で作曲チーム)は寝ながら適当に書いても大ヒットになってしまうんじゃないかというぐらいの勢いだっただろうと思う。このアルバムがリリースされた1979年は全世界的に大流行したディスコ・ブームの終焉期にあたり、この翌年にリリースされた「Super Trouper」はあっさりディスコ色を排した落ち着いたバラードの多い王道ポップのアルバムなのだけれど、この「Voulez-Vous」はディスコのスタイルに乗せながらもしっかりABBAのオリジナル曲にしてしまっている所に彼らの非凡さを感じるのである。来年でリリース40周年になるのだけれど、いつ聞いても古臭く感じない時代を超えた名盤の一つと言っていいだろう。この作品に限らず、ABBAの一番の魅力はどんなアレンジにも耐える普遍的な美しさを持つメロディーだと思う。そりゃスティーヴン・ウィルソンが夢中になるのもわかるよね。