sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この1曲】ABC「The Look of Love」(「The Lexicon of Love」(1982)

洋楽を聴き始めの小学6年~中学1年の頃、いわゆるニューロマンティクスやシンセポップと言われるバンドには随分はまったものである。実際結構流行っていて「ミュージック・ライフ」のような洋楽誌でもデュラン・デュランやアダム&ジ・アンツ、ヒューマン・リーグ、ウルトラヴォックス(ミッジ・ユーロ時代)はよく取り上げられていた記憶がある。見た目が華やかなのでグラビア向きだったというのもあるが、それまで「American Top 40」や「ベストヒットUSA」を通じて洋楽を聴いていた小学生の自分にとってこれらのバンドはそれまで聴いていたアメリカのバンドとは違う、どこか遠くて不思議な魅力を放っていた。今から彼らのファッションやメイクや髪型を見ると「何でこんなバカバカしい恰好がまかり通ってたんだろうか」と笑ってしまうのだが、当時は純粋にイケていると思っていたから時代の空気とは恐ろしいものだ。このニューロマブームは83年頃には「ブリティッシュ・インベージョン」(全米チャートを席巻する英国出身バンドのブーム)に吸収されて自然に消滅した印象だが、このABCはそんなニューロマブームがそろそろ終盤に差し掛かった頃にデビュー曲「The Look of Love」で一躍スターダムに躍り出たバンドである。一般的にニューロマと言われるバンドはロキシー・ミュージックの影響が指摘されることが多いが、このABCはヴォーカルのマーティン・フライの見かけがブライアン・フェリーの直系と言われるほどの似方で雑誌でもよくネタにされたものだが後に某人気ロック漫画によって「大顔連」のイメージのほうがメジャーになってしまったのは不幸なことである(笑)


ABC The Look of Love - YouTube

ABCで1曲というとやはり「The Look of Love」だと思う。ファンキーなリズムと流麗なストリングス、そしてマーティン・フライの甘くて妖艶なヴォーカルがこの曲をニューロマンティクスの傑作にしている。しかしこの曲を聴いてイメージされるのはどう考えてもこの曲が収録されている「The Lexicon of Love」のジャケットの夜の都会の雰囲気なのだが、上のPVは曲のイメージとはいまいちマッチしない能天気に明るくてノリが意味不明のギャグテイストである。この時代のバンドは受け狙いなのかしらんが元の曲とPVのイメージが全くミスマッチなものが結構あるのだが、「The Look of Love」はその最たる例じゃないだろうか。なまじ曲のイメージに合わせてメンバーもキメキメで撮ってしまうと後で見返したときに却って恥ずかしくなるというのもわからないでもないが、もうちょっと何とかならなかったのだろうか。
彼らのデビューアルバムである「The Lexicon of Love」(1982)はトレヴァー・ホーンが後にアート・オブ・ノイズを結成することになるメンバーたちと共にプロデュースにあたった作品である。当時は全く気付かなかったが今から聴くといかにもトレヴァー・ホーンらしい、ストリングスを多用した大仰でドラマチックなアレンジであることがよくわかる。イエスの「ロンリー・ハート」やアート・オブ・ノイズのデビュー作、そしてフランキー・ゴーズ・トゥ・ハリウッドの衝撃的なデビュー曲「リラックス」がすべて1983年のリリースであることを考えるとこのABCの「The Lexicon of Love」は後の売れっ子プロデューサーとして一世を風靡するトレヴァー・ホーンの先駆的作品ともいえるだろう。しかしこのアルバム、どうしてもシングル曲(「The Look of Love」「Poison Arrow」「Tears Are Not Enough」など)が強力すぎてその他の曲とのバランスが悪い気がする。