sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Read My Lips」 Sophie Ellis-Bextor(2001)

今では純然たるポップス歌手のソフィー・エリス=ベクスターだが、彼女が日本の洋楽ファンに知られるようになったのはインディー・ロックバンドtheaudienceのヴォーカルとしてだったと思う。ブリットポップ後期にデビューしたバンドであるが、同時代の女性ヴォーカルのブリットポップバンド、例えばエラスティカやスリーパー等に比べるとその取り上げられ方は随分地味だったように思える。ひょっとしたらtheaudienceのヴォーカルとしてよりマニックスの「Black Holes for the Young」(←「The Everlasting」カップリング曲)でデュエット参加した人、という印象のほうが強いぐらいかもしれない。当時の洋楽誌においてソフィーは「(母親で有名TV司会者の)ジャネット・エリスの娘」「Double Barrel」(二重姓を持つ人=上流階級)といった「お嬢」イメージで語られることが多かった。普通こういう芸能人二世という立ち位置の人はもっとワイルドな方面にはっちゃけたりすると思うのだが彼女はむしろ「お嬢」キャラを武器に王道ポップスの世界で堂々と勝負することを選んだところが潔い。彼女がメジャーブレイクしたきっかけとなったのはtheaudience解散後2000年にリリースされたイタリアのDJ Spillerとのコラボによる「Groovejet(If This Ain't Love)」である。このシングルは同時期リリースのヴィクトリア・ベッカムのシングル「Out of Your Mind」との一騎打ちにより「Posh vs Posher」(←Posherとはソフィーのこと)と言われたのであるが1位を獲得したのは当時スパイス・ガールズのメンバーとして知名度の高かったヴィクトリアではなく当時はまだ無名の新人であったソフィーのほうだったので一躍注目を浴びたのであった。真夏のビーチで聴くのにピッタリなノリノリの軽快なダンスビートにソフィーの気だるいアルトのヴォーカルの組み合わせはとても洗練されてて今聞いても新鮮である。そんな勢いに乗ってリリースされたのがデビューアルバム「Read My Lips」である。 

Read My Lips

Read My Lips

 

 ソフィーを語る上で欠かせないのは歌における英語のアクセントである。何というか物凄く「イギリス英語」なのである。それもブリットポップの連中のようなコックニーではなくてBBC英語みたいなお上品な発音なんである。わたしは長年のUK音楽リスナーだが彼女ほど「いかにもな」イギリス英語で歌う人を見たことがない(本国では「気取ってて嫌い」という人もいるらしい)。ところがインタビューを見るとフツーに庶民っぽいというかチャキチャキな話し方をするので彼女の「お嬢」キャラはあくまで歌の中限定なんだろう。これでインタビューまで「お嬢」だったら浮世離れ過ぎてネタ扱いされそうだ。とはいえレトロな80年代風ポップスとソフィーのややハスキーで気だるいヴォーカルの取り合わせはやはり今時の女性シンガーにはない古風な品の良さを感じる。本国ではカイリー・ミノーグと比較されるほどの歌姫なのにどういうわけだかこれまでソフィーのソロは1枚も日本盤が出ていない(最新作の5枚目でやっと国内仕様のCDが出るっぽいのだが何故今頃?という感じだ)。こういう、UK産でも音楽的にロキノン系から逸脱しているようなアーティストは日本では売りにくいのだろうか。女性アーティストにはややそっけなかった(?)「ミュージックライフ」は無理でも「ポップギア」が現在も健在であったならソフィーのような華のある女性シンガーは絶対大事に扱ってくれただろうにもったいないことである。最新作はそれまでのディスコ路線を離れて生歌に挑戦しているがやはりソフィーの原点はこの1stであろう。大ヒット曲「Take Me Home」「Murder on the Dancefloor」の他、ブラーのアレックスが作曲に関与しているダークでゴス風味の「Move this Mountain」も秀逸。