sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Matriarch」Veil of Maya(2015)

昔からよくあることなのだがメンバー(主にヴォーカリスト)交代で音楽性がそれまでとガラリと変わってしまうことがある。古い例ではレインボー(ロニー・ジェイムス・ディオグラハム・ボネット→ジョー・リン・ターナー)やウルトラヴォックス(ジョン・フォックスミッジ・ユーロ)などが有名だと思う(まあメンバーが全然交代しないのにどんどん音楽性が変わってしまうU2みたいなのもいるけどな)。特にメタル界隈においてその傾向が顕著なのは、バンドの「顔」がポストパンク/オルタナティブ系の場合「歌詞を書く人(主にヴォーカリスト)」であることが多いのに対しメタルバンドでは「曲を書く人(主にギタリスト)」であることが多いからヴォーカルが交代してもバンドのアイデンティティーが崩壊しないからなんだろう。しかし入ってくるのが前任と全く異質な個性を持つヴォーカリストだったりするとやはり古参ファンからは心ないバッシングを受けたりするから気の毒なことだ。
米国シカゴ出身のVeil of Mayaはdjent/デスコアバンドとして知られるバンドである。これまでに取り上げたdjent系のバンドと違いこのバンドは長年デスヴォイスオンリーで通してきてそれがファンから支持される要因であったらしい。このデス声信仰というのは一部のメタラーの間で結構根強いようでクリーンヴォーカルの曲のYouTubeのコメントを見ると決まって「何このゲイっぽい声」と書いてくる奴が現れる。メタル万年初心者の私などは「デス声なんて誰がやっても同じじゃん、クリーンのほうが歌い手の個性がわかりやすいし面白いよ」と思ってしまうのだがきっとデス声支持者の間では「クリーン=軟弱=メタル失格」みたいなイメージみたいなのがあるんだろう。昔「短髪はメタラー失格」みたいな風潮があったがそれと似たようなものだろうか。現在のBFMVのマットの短髪も随分文句言われてるようだけどあれはメタラーとしてのポリシーというより「長髪の時ほどイケメンに見えない」というのが主な理由なんじゃないかな。

Matriarch

Matriarch

 

 「Matriarch」はVoMの通算5枚目のアルバムである。新ヴォーカリストのLukas Magyarを迎えクリーンヴォーカルを取り入れた初めてのアルバムということでこのバンドの長年のファンの間では激しい賛否両論が巻き起こっているらしい。私はクリーンがあったほうがいい派なのでこの方向転換は歓迎だが問題はこのクリーンパートがペリフェリーのスペンサー・ソーテロにそっくりなんである。実際スペンサーがこのアルバムのヴォーカルアレンジに協力しているのらしいが「本当はアンタが歌ってるんじゃないの?」ぐらいの似方である。収録曲も「これ「Periphery II」に似たような曲なかった?」みたいなのが複数ある。元々ペリフェリーとは同じレーベルメイトであるし、一緒に欧州&英国ツアーもするらしいし、そもそもVoMの前作もミーシャがプロデュースにかかわっていたからペリフェリーの影響は元々強かったんだろうがここまでヴォーカルや作風がそっくりだと「ペリの劣化コピーじゃん」と文句を言いたくなる人が出てきても何の不思議もない。
でも実際は全然「劣化コピー」じゃないんである。最近のペリフェリーの作風を微妙に感じている人にはむしろこっちのほうがいいと感じている人も結構いるようだ。何しろ曲の構成がどれもカチっとしていて無駄がない。あとLukasのクリーンヴォーカルがイケメンチックなのがいい。この系のバンドにおいて「声がイケメンかどうか」というのは重要だと思う。もちろんdjent特有のザクザク感やプログレ的な複雑な曲展開も魅力的で何度も繰り返し聴いてしまう。
コンセプトも興味深い。「Matriarch」(女族長、家母長制)というタイトル、東洋風の装束の女性をフィーチュアとしたエキゾチックなジャケット、曲の大半を女性の名前(←複数のゲームキャラが出典らしい)で占められているところを見ても母性とか女性的なパワーみたいなのがモチーフになってるのかなと想像される。大体バンド名も偶然とはいえ「マヤ」という日本女性っぽい名前が入ってるし(←本当はCynicの曲名からとったらしいけど)、東洋的なものや女性的なものに対する「縁」みたいなのは前々から感じていていたんじゃないだろうか。それが象徴的に現れているのがタイトル曲「Matriarch」の東洋風の神秘的なインストだと思う(ついでにジャケットの女性のモデルも「マヤ」という名前だったら面白かったんだが実際は鈴木なつみさんという在米のプロダンサーだそう)。今回クリーンヴォーカルを導入したことと合わせ、それまでの攻撃性を維持しつつより洗練された音作りはとても好感が持てる。
ひとつ物足りない面があるとすれば今時のバンドの作品としては37分弱と非常に短いところだと思う。1曲1曲が4分以内に収まっているのでメリハリがあって退屈はしないんだが気がつくと最後の1曲だったりする。しかし下手にボーナストラックをつけると全体のバランスが崩れて却って冗長な印象になるから難しいところだ。
どの曲もキャッチーな作風でとっつきやすいが収録曲の中ではやはり「Mikasa」が突出している。メタルコア系のバンドにありがちな、デス声で散々煽った挙句唐突にクリーンで歌われるサビの部分を聴く度に「キメキメポーズ」「見得切り場面」「ドヤ顔」というイメージが想起されるのだけどこの曲の場合そのドヤり具合が気持ちいいまでにカッコいい。ジャケットモデルの鈴木嬢が1人2役で出演するPVも幻想的で美しい。