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sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Atlantic」First Signs of Frost(2009)

もっと早い時期に出会っておけばよかったと思うバンドやアーティストは数多い。知らない間にデビューして解散していたOceansizeなどその最たる例だ。ポーキュパイン・トゥリーも私が本格的にはまる頃には活動停止していた。イエスとかジャパンみたいに全盛期の頃にまだこちらが小学生だったようなバンドは仕方ないんだが、自分の関心が別のところに向いている間に見落としたバンドを後になって見つけると「何でこれをリアルタイムで気がつかなかったんだ」と悔しい気持ちになる。私にとってFirst Signs of Frostもそんなバンドの一つである。
FSOFはロンドン出身のプログレッシブ/ポスト・ハードコア・バンドだが、現在ではTesseracTのダンが前に在籍していたことでdjent好きにもよく知られているバンドだと思う。ただTesseracTのAcleがアルバム制作にかかわっていたりするものの、このバンド自体は決してdjentではない。っていうかそもそもメタルですらない。プログレッシブなポスト・ハードコアというとあまり他に例が思いつかないのだが、以前ここでも取り上げたコヒード&カンブリアの初期の作品にとても似ているところがあると思う。当時の記事によればロストプロフェッツやフューネラル・フォー・ア・フレンドあたりと比較されるバンドだったようだ。これらウェールズ勢の中では断然BFMV派の私などは「ロスプロとFFAFならBFMVもだろ」と思ってしまうが、他の2バンドと違ってBFMVはメタルのカテゴリなんで比較対象から外れてしまうのは仕方ない。強いて言えばBFMVの1st「The Poison」の、NWOBHMっぽい部分を除外してプログレ風味を加えるとFSOFの作風に近くなりそうだ。何というか初期のBFMVに顕著だった英国らしい哀愁の漂うセンチメンタルな甘いメロディーが似てるような気がする。あとこの時期のダンの声質も若干マットに似てないでもないな。

アトランティック

アトランティック

 

 「Atlantic」はFSOFの今のところ唯一のフルアルバムである。いきなり冒頭からヴォーカルが始まる「Through the Exterior」からそのキャッチーかつスケールの大きい音世界に圧倒される。この系のバンドとしては無駄に超絶技巧な演奏が却ってツボだ。全体的に明るくて甘いメロディーとエモいクリーンヴォーカル主体の曲が多いのだが、中にはダンの後のバンドの作風につながるような曲があって興味深い。アグレッシブでヘヴィーな「Sing Sing Ain't My Style」は後のTesseracTの「One」に通じるものがあるし、最後を締めくくる叙情的な「By Virtue」はSkyharbor的だ。私は今まで「One」時代にはやや単調で荒削りだったダンのヴォーカルが、その後Skyharbor他数々のプロジェクトを通して多彩な表現力を獲得したというストーリーを描いていたのだがこのアルバムを聴くとSkyharborで顕著だったファルセットを多用する80年代ニューロマっぽいヴォーカルスタイルを既にFSOF時代に確立していたことが分かる。するとTesseracTではダンが元々持っていた表現力が抑圧されていたということなんだろうか。今から思えばアッシュ(Ashe O'Hara)も「Altered State」では苦しそうだったもんな。超絶技巧を標榜するプログレッシブ・メタルバンドは本質的にヴォーカリストに優しくない。ペリフェリーもスペンサーになるまで何人もヴォーカリストを替えているし、前回紹介したVeil of MayaのLukasも3代目だ。20年以上もバンド内外からのいじめに耐えてきた(?)ドリムシのジェイムズがいかに偉大かわかるというものだろう。
FSOFは2009年のダンの脱退以降活動は続けているものの本作に続くアルバムを出せていない。せっかく良い曲を書くバンドなのにもったいないことだ。「TesseracTなんてヴォーカルは所詮オマケなんだからダンも大人しくFSOFで活動続けてればよかったんだよ」と思わないでもないがそもそもダンがTesseracTやSkyharborで活躍してなかったら自分もFSOFを知りようがなかっただろうから困ったことだ。BFMVばかりにかまけていないでロスプロやFFAFをもう少しきちんとフォローしていればもっと早いうちに出会えたんだろうか。
全く余談だけどこのジャケット、最近のマニックスの作品っぽい。っていうかニッキーに似てるよねこの子。