sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

【この1曲】Ashe O'Hara 「I've Give Up On You」(2014)

先日、TesseracTの通算3作目「Polaris」が日本先行発売という記事がリリースされたがバンド紹介の中の「2枚のアルバム『One』(2011)『Altered State』(2013)でシンガーが安定せず、何度かの交替を経てきた彼らだが、初代ヴォーカリストのダニエル・トンプキンスが復帰して制作されたのが『ポラリス』だ。」という記載を見て「おいおいアッシュ(Ashe O'Hara)は無視かよ」とツッコミたくなってしまった。アッシュが2nd「Altered State」で果たした貢献については既に先日の記事で書いたとおりだがそれだけでなくアッシュはルックスも抜群なんである。「ダニエルのほうがずっとイケメンだろ、アッシュはデブだし」という声が各方面から聞こえてきそうだがこれに対しては「デブ専、じゃなくてマニックスのファンをなめるな」と反論するしかない。しかしペリフェリーの「The Parade of Ashes」という曲のタイトルを見て「きっとこれは「デブパレード」だと揶揄しているのに違いない」と被害妄想に陥ってしまうのも事実なわけでアッシュにはもうちょっと痩せてくれないかなと思ってしまう。しかしこのヒゲ面のポッチャリな(しかしベースはイケメンな)オッサンみたいなのが天使のようなハイトーンヴォーカルで歌うところに魅力があるわけで、この点で彼はマニックスのジェームズの後継者(笑)だと個人的には思っている。アッシュは最近自身のバンドVoices From the Fuselageで新作「Odyssey:The Detroyer of Worlds」をリリースしてそっちも非常に評価が高いが今回紹介するのはその1年前ぐらいにAshe O'Hara名義でリリースした下の作品である。

「何だこれわぁぁ」と全世界のTesseracTのファンが発狂しそうな今時のエレクトロダンスポップである。リリース時期がギリギリTesseracT在籍時だったので「こういうのもありだと思うよ(心の声:自分は好きじゃないけどね)」と大人のコメントが散見されたがこれがTesseracT脱退後のリリースだったらどれだけ叩かれただろうか。しかも厄介なことにアッシュのヴォーカルがこの系の曲に対して全然違和感がないんである。それどころか「実はこういう路線のほうが彼には合っているんじゃないだろうか…」と思ってしまうのは、彼の声が持つソウルフルなテイストのせいもあるんだろう。「Altered State」では全編女声かと間違われるほど高い声域で歌われていたのに対し、「I've~」は彼本来の声域で歌っているのでよりリラックスして伸び伸びと歌ってるなというのが伝わってくる。こういう無機質なダンス音楽にはウォームでソウルフルな生ヴォーカルがよくマッチすることは過去にもSAW時代のリック・アストリーの大ヒットやその後のガラージュ・ハウス等の大流行で証明済みだ。おまけにアイドルみたいなイケメンだしな(←そこでデブデブ言ってる人、昔のアッシュを見たら絶世の美少年ぶりに卒倒するぞ)。Bandcamp限定ということもありコッソリ出しました感半端ないが下手にこれが受けてしまって「何だこの路線でいいや」と本人が勘違いしてしまったらどうするんだろう。「きっとこれマニックスの「Miss Europa Disco Dancer」みたいな一回きりのお遊びだよ」と思いたいが、最近SoundCloudにアップされているデモ曲集の中にもこんな感じのダンス音楽があったぞ。大丈夫か?

「One Love」Blue(2003)

「また紛らわしい名前シリーズかよ」と思う方もいるかもしれないが、私が2000年頃に半分ネタで半分真面目に追っていたのがブルーというボーイズグループである。同じイギリス出身の4人組だしきっとブラー(Blur)ファンからは相当ウザがられてたんじゃないかと思う。ちょうど活動期間がテイク・ザットが解散~再結成の間にあたり、隙間をついたと言っては悪いが当時解散で傷心のテイク・ザットのファンを上手く取り込んだところはあるんじゃないかと思う。
ブルーが他のボーイズグループと一線を画すところがあるとすれば、それはかなり本格的なR&B路線だったところだろう。大体メンバーに黒人(サイモン・ウェッブ)がいるところからしてかなり「反則」である。普段はこのサイモンとリー・ライアンが曲の大半を歌い、その次がアントニー・コスタだったので歌におけるダンカン・ジェイムズの出番はあまりなかったんだが実際はダンカンがブラッド・ピット似ということでファンの間ではダントツ一番人気だった。この辺が何というかやっぱりボーイズグループならではの現象という感じだが、メンバーのルックスを抜きにしてもR&Bをベースとした洗練された雰囲気の楽曲群は聴きごたえのあるものが多かった。実際デビュー曲「All Rise」に始まり「Too Close」「If You Come Back」と立て続けにヒットを飛ばし、解散までの3枚のアルバムは全て全英No.1という人気ぶりであった。しかしその後各メンバーはソロとして活動を始めるものの、誰一人としてグループ時代ほどの成功を収められなかった(後に再結成するものの新作の売れ行きは芳しくなく今年4月にはソニーから契約解除を受けてしまっている)。特にリーは最初の解散以降、暴行事件やら飲酒運転やらで2度も逮捕されたりで悲惨なことになっている。正直言ってリーなんてルックスもいいし歌だって文句なしに上手いしこれで売れないほうがどうかしていると思ってしまうのだが、例えばニュー・キッズ・オン・ザ・ブロック時代に「次代のジョージ・マイケル」と高い評価を受けていたジョーダン・ナイトでさえソロでの実績は微妙だったことを考えるとやはりグループとして一旦大成功を収めてしまうとソロになってもグループ時代のイメージを延々と引きずることになって苦しいんだろう。SMAPの連中が40になってもソロにならずグループとして活動を続けているのは多分自分たちの芸能人としての価値がSMAPという肩書きがあってこそであることをよく理解しているからなのだろう。誰もがロビー・ウィリアムズになれるわけではないことをボーイズグループの連中は肝に銘じるべきである。つい先日ワン・ダイレクションを脱退したゼインがソロ活動を始めるようだが果たして上手くいくんだろうか。 

One Love

One Love

 

 「One Love」はブルーの2枚目のアルバムである。やはりタイトル曲の「One Love」が突出しているが、エルトン・ジョンとの共演で話題を呼んだ「Sorry Seems To Be The Hardest Word」や人気曲「U Make Me Wanna」も収録されている。しかし今聴き返すと全体的には結構地味なアルバムだ。よくこんな「落ち着いた」雰囲気のアルバムが全英1位を獲得したものである。当時の彼らの勢いがいかに凄かったかが伺えるというものだ。ちなみに手持ちのCDにはCDエクストラとして「Blue in Japan」なるものが入っているが来日時の映像でも入ってるんだろうか。彼らのルックスにはさほど興味はなかったので一度も見ていないけれども。

【この1曲】Killswitch Engage「Holy Diver」(「As Daylight Dies:Special Edition」(2007))

今やロックの歴史も半世紀以上となり同姓同名のミュージシャンも当然増えている。私が若い頃はロジャー・テイラーという名前のドラマーがクイーンとデュラン・デュランにいてどちらも人気だった。「カタカナで書くと同じ名前のバンド」の場合と同様、こういう同姓同名ミュージシャンたちはお互い音楽性が遠ければ遠いほどインパクトが強くてネタになる。多分これ以上の対照的な例もそうそうないと思われるのが「ハワード・ジョーンズ」であろう。歳がばれるが私にとってハワード・ジョーンズというのは80年代ポップス界を風靡したイギリス出身のシンセポップアーティストである。通称「ハワジョン」で親しまれていた彼は色白でスリムでどこか気の弱いところのありそうな、元祖「草食系男子」(←実際彼は菜食主義であった)と言った風情の、ブロンドの髪をツンツンに立てた独特の髪形が人気の青年であった。ポップでありながらどこか哀愁漂う曲も日本人好みでファンも多かったと思う。そんなわけで米国のメタルコアバンドKillswitch Engageの下の動画で朗々と野太い声で歌っているスキンヘッドの強面のゴツい大男の名前がハワード・ジョーンズと聞いて「えぇ~そりゃないよ」と思ったものである。だっていかにも肉食って感じじゃんこの人。下のPVでも王様の格好してるのが思いっきり肉食ってるし(←それ別のメンバーだから)。ルックスも出身も違えばやってる音楽も全然違うし、この組み合わせで両方CD持ってますっていう人はさすがにいないんじゃないかな(←余裕で持っているよという人はこちらに連絡を)。


Killswitch Engage - Holy Diver [OFFICIAL VIDEO ...

「Holy Diver」というのはカヴァー曲でオリジナルはあのロニー・ジェイムス・ディオ率いるバンドDioの曲である。ロニーの超人的なヴォーカルが強烈な存在感を放っている曲だから、おいそれとカヴァーするのもためらわれそうなものだがここで聴かれるハワードの骨太でパワフルなヴォーカルはロニーファンが暗黙のうちに要求するレベルを余裕でクリアしていると思う。メタルコアというと随分前にここで取り上げたブレット・フォー・マイ・ヴァレンタインもそのカテゴリーで語られることが多く確かに演奏スタイルは両者よく似ているのだが、決定的に違うのがやはり「メタルコア」の枠を自然に逸脱してしまうハワードの規格外のスケールのヴォーカルなんだと思う。PVの出来も非常によい。何と言っても今時お城と王様と騎士と姫と魔法使いが出てくる中世コスプレ劇である。中世マニアであったロニーへのオマージュであることは間違いないが近年これだけエンターテイメント性のあるPVを堂々と作ってしまう勇気(←こういう大掛かりな作りはしばし80年代的とバカにされがちだから)は非常に好感が持てる。最近のバンドのPVってただ演奏しているだけのが多いからつまんないんだよね。
ちなみにこのハワードは数年前にKillswitch Engageを離れており、現在はハワードの前にこのバンドに在籍していたジェシー・リーチが復帰しているのらしい。あれ~、何か前回のダンとアッシュみたいだぞ?TesseracTもそうだけどいくら先代ヴォーカリストといえ後任がなまじ高い評価を得てると色々とやり辛いところもあるんじゃないかね。口の悪い人なら「わざわざ戻ってくるぐらいなら最初からバンド抜けるなよ」と思うだろうし。例によってファンの間では各所でジェシー派とハワード派が激しく対立しており「Jesse vs Howard」なる動画まで何本も作られている始末。本人たちは「下らない論争はやめろ」とクギを刺しているようなのだがKsEに限らずロックバンドのファンというのは自分の贔屓のメンバーのほうが上であってほしいものなんだろう。
しかしここの「万年メタル初心者が超いい加減にメタルバンドを語るシリーズ」、そろそろ各方面のメタルファンから刺されそうだな。

【この1曲】TesseracT「Nocturne」(「Altered State」(2013))

英国ミルトン・キーンズ出身のテッセラクト(TesseracT)というdjent/プログレッシブメタルバンドはよくペリフェリーと比較されるバンドのようで以前から気になってはいたのだがなかなか手を出せていなかったのはヴォーカルが作品ごとに違うのでどれから聴いていいのかわからなかったからである。どうやら歴代ヴォーカリストの中ではダニエルという人とアッシュという人が人気でYouTubeではどっちが上とかしょっちゅう対立しているようなのだが、Twitterでこの2人の名前を日本語で検索するとバウハウスのギタリストのダニエル・アッシュばかり出てきてしまう。一体何年前で時間が止まってるんだよ(って全く同じことを考えたわたしも人のことは全く言えないんだけれども)。ちなみにテッセラクト(tesseract)というのは四次元超立方体(4D Hypercube)の一種の名前である。だったら「Hypercube」のほうが名前としてわかりやすいだろうにと思ってしまうが調べてみたら既にそのようなバンドが別に存在しているようだ。まあtesseractのほうが理系っぽくてオタク心を刺激していいかもしれんけどな。実際に新作「Polaris」日本仕様盤の叩き文句が「UKプログレッシヴ・メタル幾何学の定理を解き明かす!」だもの。何だか昔のデビシル1stアルバムのコピー「美の因数分解」というのを思い出しちゃったよ。もう誰も覚えてないかもだけど。


TESSERACT - Nocturne (OFFICIAL VIDEO) - YouTube

今回紹介するのはそのアッシュ(Ashe O'Hara)がヴォーカルの2nd「Altered State」の「Nocturne」である。この曲をいわゆる「メタル」として聴くと違和感を覚えてしまうんじゃないだろうか。まずアッシュのヴォーカルとコーラスが全く「メタル的」じゃない。1st「One」の時のダニエル(Daniel Tompkins)もクリーンパートが時々U2のボノみたく聞こえる場面があったがアッシュの場合まるでテイク・ザットやワン・ダイレクションみたいなボーイズグループみたいな歌い方なんである。ルックスもヒゲ剃って痩せれば充分アイドルとして通用しそうな可愛らしい顔立ちなのに何の因果でこんなメシュガーフォロワーから出発したメタルバンドで歌ってるんだろうか。しかしこのアッシュの天使のような清冽で甘美なハイトーンヴォーカルこそがテッセラクトを他の量産型Djentバンドとは決定的に一線を画す存在に進化させたと言われているのだから侮れない。「Altered State」も最早Djentというよりアンビエント色の濃いプログレッシブ・メタルという風情の作品で、この後に現代プログレシーンを牽引するKscopeレーベルに移籍というのもとても納得な内容なのである。残念ながらアッシュはこの2nd「Altered State」1枚でバンドを抜けてしまい1st「One」のヴォーカルだったダニエルが復帰したのだがファンの間では好意的な意見が多い中「え~今さらダンかよぅ…」という声も少なくないんである。そう言いたくなる根拠は多分ダニエルが歌う「Nocturne」だろう。下の動画は昨年ダンが復帰したときのライブである。


TESSERACT - Nocturne (OFFICIAL LIVE VIDEO ...
ダンもパワフルなヴォーカリストだけどやっぱり「Nocturne」の高音パートになるととたんに音が外れたり声が裏返ったりで苦しそうである。歌い回しを大幅にアレンジして自分の歌にしようとする努力は買うしステージパフォーマンスはさすがにカッコいいけどやっぱり「Nocturne」の最大の魅力は透明感あふれるハイトーンヴォーカルだったから「アッシュって凄かったんだな…」と思ってしまう。まあKscope移籍第一弾となる新作「Polaris」も予告編を聴く限り大いに期待できそうだからこのまま頑張ってほしいけどね。

「Our Favourite Shop」The Style Council(1985)

ポール・ウェラーの経歴において不当に過小評価されているのがスタイル・カウンシル(以下「スタカン」)であることは以前のポール・ウェラーのソロ1stの記事にも書いた。今から思うと確かにジャズとかR&Bとかフレンチポップみたいな既存の「オシャレ」といわれる音楽を無批判にパクっているような楽曲が多かったので、NMEみたいなうるさ型の雑誌には受けが悪かったのも理解はできる。アルバムのタイトルからして「カフェ」だの「ショップ」だのまるでファッション雑誌の記事みたいだし初期の彼らの格好もおフランス趣味丸出しで今振り返ってみると結構気恥ずかしいものがある。しかも彼らはこれをギャグではなく大真面目にやっているのだからなおさらタチが悪い。さらにタチが悪いことに日本人はこういうのが大好きである。いわゆる「渋谷系」の走りみたいなものじゃないだろうか。最近の神楽坂に行くとよくわからんフレンチとかカフェとか建ち並んでいていかにもオシャレな雰囲気を演出しようとしているのが見え見えで萎えるが、まさにこのノリがかつてのスタカンを思い出させてどこか懐かしい気持ちにさせられる。

と散々バカにしているような書き方をしているがわたしはスタカンが大好きだったのだ。スタカンのおかげでR&Bに目覚めたと言ってもいいぐらいである(それまでホール&オーツのようなR&Bから出発したバンドも聴いていたのだが、当時小学生だった自分にはそのR&Bの部分がピンとこなかった)。後期にはアシッド・ジャズのブームの中核となるトーキング・ラウド一派のアーティスト達との関わりも興味深い。 

Our Favourite Shop

Our Favourite Shop

 

 「Our Favourite Shop」は一般的にはスタカンの代表作といわれる2ndアルバムである。UK好きとしては「favourite」というスペルが学校で習うアメリカ英語(favorite)と違うのがいい。ジャケットのデザインから収録曲まで全てが洗練されてて、かつポジティブな雰囲気に溢れていて当時の彼らの勢いと自信が伝わってくるような傑作だ。なおジャケット写真の本人たちの後ろに「アナザーカントリー」のポスターがあって、当時「彼らはそういう趣味なのか?」と勝手に萌えていた腐女子もいたらしい。「Walls Come Tumbling Down」「The Lodgers」等多くのシングル曲があるが何と言ってもミック・タルボットのオルガンが大フィーチュアされたインスト「Our Favourite Shop」が出色である。この曲をタイトル曲に持ってくるという点でミック・タルボットはスタカンサウンドの要であって、アンドリュー某などと一緒くたにして「もう1人」扱いすることなどとても失礼な話なのである。「誰だよアンドリュー某って」と思う人は今後の記事に期待していてください。

【この1曲】Steven Wilson 「Hand. Cannot. Erase.」(「Hand. Cannot. Erase.」(2015))

ついでに来週リリース予定のスティーヴン・ウィルソンの新作「Hand. Cannot. Erase.」からのタイトル曲を取り上げてみたいと思う。この曲はキャッチーなメロディーの非常にポップな曲なんだが、何というかものすごくマニックスっぽい曲なんである。パッと思いつくのは「(It's Not War)Just the End of Love」だが、他にも似てる曲がありそうだ(「Prog」誌のレビューでは「This is My Truth Tell Me Yours」に入っていてもおかしくない曲と評されていた。やっぱり考えることはみな同じだな。っていうか「Prog」誌の人たちってマニックス聴くんかい)。マニックスは元々歌詞とかアティテュード(初期にはルックスも)など音楽性以外の部分で注目されてきたバンドで、他のバンドについて「マニックスっぽい」という形容をするときにはその音楽性が念頭におかれていたことは今までほとんどなかったんじゃないかと思うがこの曲を一聴して「マニックスっぽい」と思うということはマニックスの(歌詞面を抜きにした)音楽性にもそれなりに独自性があるということなんだろう。まあスティーヴン・ウィルソンが日頃ガチでマニックスを聴いているとは到底思えないんだが、最近ラッシュのレビュー等でしょっちゅうスティーヴンとニッキーがバッティングしているから名前ぐらいは知っているんじゃないかと思う。


Steven Wilson - Hand Cannot Erase - Lyrics

今回のアルバムはリリースの半年近く前からレコーディング風景の動画を公開したり通常版、デラックス版他いくつものバージョンを揃えるなどものすごくプロモーションに力を入れている印象。それにしてもこれだけの充実ぶりを見せられるといよいよポーキュパイン・トゥリーの今後が不安になるが、ブラーも「Think Tank」から今回の新作まで12年かかってるしな。「そんな例を出されても」と思うかもだけどマイブラの22年より全然余裕だと思うわ。

「The Raven That Refused to Sing (And Other Stories)」 Steven Wilson(2013)

最近のスティーヴン・ウィルソンはソロ活動が充実しすぎていて、ポーキュパイン・トゥリーを再始動させる予定は今のところ全くないのらしい。「The Incident」から既に5年経過しているから、長年のファンは不安だと思う。でも「Loveless」から「mbv」まで22年かかっているマイ・ブラッディ・バレンタインみたいな例もあるからな。そんな極端な例を出されても困るだけかもしれんけど。
スティーヴン・ウィルソンという人は物凄く才能があるのは確かなんだが、日本で今一つブレイクしないのは無駄に器用すぎるというかいい意味での胡散臭さがないからなんだろう。第一名前がフツーすぎる。70年代ミュージシャンなら間違いなく芸名にしただろう。デヴィッド・ジョーンズ(=デヴィッド・ボウイ)レベルのフツーさだもん。ルックスも決して悪くはないが地味だしな。往年のプログレバンドのフロントマンがみんなそれぞれにキャラが濃いのと対照的だ。まあこの辺が今風なのかもしれないけど、ルックス的にキャラの立っているアーティストが受けやすい日本においては色々ともったいない気がする。似てるとよく言われるゲディ・リーだってもうちょっと見かけにインパクトあるぞ。

The Raven That Refused To Sing

The Raven That Refused To Sing

 

 「The Raven That Refused to Sing (And Other Stories)」はスティーヴンのソロ3作目である。まずジャケットのアートワークが適当過ぎて笑う。まるで小学生が描いた万博公園太陽の塔のてっぺんのアンテナだ。しかし中身は恐ろしくレベルが高い。これだけ完成度の高いアルバムを聴いたのは久しぶりである。何と言ってもアルバム冒頭の「Luminol」のオープニングのベースが衝撃的だ。この最初の数秒だけでこの曲が傑作であることが確信できる。このベースを弾いているのが前回紹介したカジャグーグーのニック・ベッグスである。某プログレ誌の人気投票で何故ニックがゲディ・リーとクリス・スクワイアに匹敵する票を集めたのかこのアルバムを聴けば充分納得だ。というかこのアルバムでのニックのベースプレイ自体がゲディ・リーやクリス・スクワイアに似すぎているのである。このアルバムはピンク・フロイドやクリムゾンやジェネシスやイエスなどいわゆる70年代プログレのエッセンスをふんだんに盛り込んだアルバムらしいんだが、この辺のバンドをろくろく聴きこんでいるわけでもないわたしでさえ「Watchmaker」のインストパートを聴いて「なんだこのラッシュみたいな曲は」と盛り上がれるのだから70年代英国プログレのファンはさらに感涙モノじゃないだろうか。もちろんそんな予備知識がなくても充分楽しめるアルバムなんだが、70年代をリアルで経験している人は「あまちゃん」(←マニアックな80年代ネタ満載でその世代に大ウケした人気朝ドラ)状態でなおさらおいしいだろう。でもよくよく考えてみるとスティーヴン・ウィルソンは1967年生まれで世代的にこの辺のプログレ全盛期はリアルタイムじゃないと思うのに何でここまで70年代プログレに造詣が深いんだろうか。まあ「オアシスだってビートルズはリアルタイムじゃないじゃん」と言われればそれまでなんだけどさ。