sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Six」 Mansun(1998)

90年代後半にわたしがマニックススマッシング・パンプキンズと共によく聴いていたのが英国チェスター出身のマンサンというバンドである。当時のファン層はスウェードマニックスのファンとかなりの部分かぶっていたような印象だ。マンサンはブリットポップのブームが終焉を迎えつつあった1997年に「Attack of the Grey Lantern」で初登場チャート1位の快挙となるデビューを飾っている。オアシスのフォロワーみたいなのが溢れていた当時のUKロックシーンにおいて彼らが特異的だったのは(一般的にはダサいという扱いをされている)80年代のテイストが感じられるところだった。特にヴォーカルのポール・ドレイパーの歌い方はデュラン・デュランやABCなど80年代初頭のニュー・ロマンティックのバンドを彷彿とさせる。それどころかまだニューロマですらなかった頃の初期ジャパンにも通じるものを感じる。特にジャパンの1stアルバム「Adolescent Sex」におけるデヴィッド・シルヴィアンの歌い方ははポールの「Take It Easy Chicken」の頃の歌い方に似てるように思えるのは気のせいだろうか(後追いで聴くとこのような時系列丸無視の感想になる)。一時期マンサンがやたらとL'Arc〜en〜Cielと比較されていたのは、ラルク(というかhydeか)もまたデビシルや80年代ニューロマに影響を受けていたバンドだからなんだろう。

SIX (ENHANCED)

SIX (ENHANCED)

「Six」は1998年リリースのマンサンの2ndアルバムである。アルバムタイトルの由来は連続テレビドラマ「プリズナーNo.6」や「くまのプーさん」シリーズの「Now We Are Six」等諸説ある。タイトルの由来も謎めいているが何と言っても強烈なのはその内容である。何の先入観なしに聴き始めると冒頭でいきなり8分を超える大作のタイトル曲「Six」に衝撃を受けるはずである。最初はキャッチーなメロディーのごくフツーのポップなのだが突然曲調が変わり複雑怪奇な転調の嵐に「なんだこれは!?」とあっけにとられること請け合いである(ちなみにシングルバージョンはこの複雑怪奇な部分がバッサリカットされてしまい全く面白くない)。トータル70分強、収録14曲中実に6曲が6分を超える大作でありまたコンセプトアルバム的な面もあるためプログレ的文脈で語られることの多かった作品であるが、わたしがマンサンをプログレとして語るのに抵抗を感じる点が1つあるとすればそれはあまりにもストーブさんのベースが面白くないからなんだと思う。別に超絶技巧である必要は全然ないけれどベース好きとしてはもうちょっと存在感を発揮してくれよと思ってしまう。まあPVやステージ上では意味もなく上半身裸になるとか別の意味での存在感を発揮していたんだが(笑)

この「Six」はUKチャートでは6位という記録である。失敗とは言わないが1stが初登場1位だったのと比べると若干見劣りするのは否めない。レディオヘッドの「OKコンピューター」(1997年)の大成功により実験的なものを受け入れる下地は当時充分できていたと思うのに不思議でならない。もしも「Six」が「OKコンピューター」のような受け入れられかたをされていたのであれば現在ミューズがいる位置にマンサンがいたかもしれないしあるいは先日紹介したOceansizeやポーキュパイン・トゥリーのような新世代プログレ方面に展開する可能性もあっただろうと思うのだがこの次の3rd「Little Kix」でバラード主体のコマーシャル路線に変化してしまったのは返す返すも残念でならない。いや「Little Kix」も充分良作なんだけどね。