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sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Signals」 Rush(1982)

ラッシュ(RUSH)はわたしの長年にわたる洋楽生活における嗜好の方向性を決定づけたバンドであると言っても過言ではない。実際これまで取り上げてきたバンドの大半が「ラッシュに似ている」か「ラッシュと関わりがある」のいずれかである。まあ後出しじゃんけん的にファンを公言しだしたスマパンマニックスについては元々全然ラッシュとは関係ないところから聴きだしたんだけども。ラッシュにはまるようになったのは洋楽を聴き始めて間もない中学1年生の頃だったのだけれど「演奏がうまい」「歌詞読むと賢くなれそう」等中学生にも分かりやすい魅力を持っていたからなのだと思う。ちなみにラッシュを「プログレ」として語られることには長い間違和感があった。何というかプログレと言うとキング・クリムゾンとかユーロロックとかそっちのイメージが強い(←それも随分偏っているとは思うが)のでその中にラッシュを入れるのは何か違うんじゃないかという気がしてならないからである。まあ英Prog Magazineの表紙&特集記事が組まれたりするから実際向こうでもプログレ扱いなんだろうけど。

Signals

Signals

「Signals」は1982年リリースのアルバムで、わたしがリアルタイムでラッシュを聴き始めた最初のアルバムでもある。とはいえその前から米軍放送FEN(現AFN)でしょっちゅう過去のラッシュの曲を聴いていたからシングルカット曲の「New World Man」を聴いたときには「これ本当にあのラッシュ?」と面喰ったものである。当時はポリスみたいだと盛んに言われていた(それを本人たちも嫌がらなかった印象だ)。ラッシュの長年にわたる音楽キャリアにおいて重要な転換点はいくつかあるが70年代における大作主義からのコンパクト化を図りつつも何だかんだで「Moving Pictures」まではプログレ的な雰囲気を感じ取ることができるがその次の「Signals」ではいわゆる音楽形式としての「プログレ」的手法が完全に放棄されている。いまこのアルバムを聴くとシンセサイザーが過剰だし、音は軽いし、ゲディ・リーは叫ばないしで「プログレッシブ・メタルの元祖」としてのラッシュが好きな若いファンは多分このアルバムは微妙って感じじゃないだろうか。しかし当時の(中学生の)わたしにとってこのアルバムは「未来」を感じさせるものであった。実際歌詞においても「Digital」「Analog」「Electricity」「Biology」「Chemistry」「Technology」など科学技術に関する単語が目立つうえにアルバム最後の「Countdown」はスペースシャトルがテーマという、どこかテクノロジーに対する楽観的な空気の感じられる作品である。(その次の「Grace Under Pressure」でテクノロジー偏重の現代社会を批判(「Between the Wheels」)しているのとは対照的だ)わたしがその後大学で化学を専攻し現在も化学に関連した仕事をしているのも「Signals」収録曲である「Chemistry」の影響がとても大きい。しかし個人的に最も印象深い曲は最後から2番目の「Losing It」である。エレクトリック・バイオリンがフィーチュアされた内省的で美しい曲であり、かつて才能にあふれ世間的名声を博していた人間が老いと共にその力を失っていくというテーマなのだが、「Signals」に収録されている意味を考えるとどんなに発達したテクノロジーの力をもってしてもこの事実を変えることは永遠に不可能というメッセージが込められているように思えてならない(全く余談だがこの曲のゲディ・リーのヴォーカルが一番プラシーボに近い)。

当時の日本盤LPには16ページにわたるものすごく充実したブックレットが入っていて「Signals」で「進化し続けるラッシュ」をアピールしたいという当時のレコード会社(エピックソニーだったっけ)の熱意が伝わるものであった。その2年後には来日公演も果たしているから、この辺りが一番ラッシュが日本で優遇されていた時期なんじゃないかと思う。現在の日本におけるレコード会社、ラジオ、雑誌等各メディアの洋楽を売り込む熱意の低さを考えると、ラッシュが今後再来日する可能性は絶望的であると言わざるを得ない。マニックスのニッキーやジェームズがラッシュのウェンブリー公演のバックステージで記念写真撮ってるの見て「イギリス人はうらやましいよな」って本気でムカついたからな。