sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「The Gift」The Jam(1982)

私がジャムというバンドの存在を知ったのは、先日のポリスの記事で触れたように小学4年だか5年生の頃で、近くのレコード屋でポリスのLPを物色していた時に同じコーナーに入っていたのがジャムだったからなのだが、彼らの曲を初めて聞いたのはそれから数年後、ラジオ日本の「全英TOP20」で当時全英チャートNo.1曲として紹介された「Town Called Malice」である。当時ジャムは本国において絶大な人気を誇っていたようで、この時期に行われたNMEの読者人気投票においては各部門殆ど総ナメ状態であった。特にポール・ウェラーに対する人気ぶりは最早宗教で男性シンガー部門とかギタリスト部門とかソングライター部門みたいなまともなものからベスト・ドレッサー、ベスト・ヘアカット、果ては「Most Wonderful Human Being(最も素晴らしい人物)」なるネタみたいな部門に至るまですべてポール・ウェラーが1位という、「NMEってジャムのファン会報誌だったんですね解ります」「あんたら何でもジャムとかポール・ウェラーとか書けばいいと思ってるでしょ」とツッコみたくなる状況であったことは確かである。日本において当時ジャムがどれだけ人気だったかはよくわからないが、当時の「音楽専科」誌の表紙になるぐらいは人気だったんだろうと思う。しかしそれよりはブリットポップに多大な影響を与えたネオモッズの代表格としてのジャムを後追いで聴いてファンになった人のほうが多いんじゃないかと個人的には感じている。まあ確かにジャム時代のポール・ウェラーは若くてイケメンだったしな(笑)ジャム解散時点のポール・ウェラーはまだ24歳で、当時もまだ若いのによくそんな大変な決断をしたなと驚いたものだがジャパン解散時のデヴィッド・シルヴィアンも24歳だったしおそらくデビュー時の18歳から24歳までの期間というのはアーティストとしての成長曲線が他の時期に比べても恐ろしく急勾配的に伸びていくものなのだろう。最近のミュージシャンは大卒が多いせいかデビュー時にはすでにある程度完成されている所があってかつてのポール・ウェラーデビシルのような劇的な音楽的変化を目の当たりにする機会があまりなくなってしまったのは残念なことである。

ザ・ギフト

ザ・ギフト

 

 「The Gift」はジャムの6枚目のアルバムにして最後のスタジオ録音盤である。前作までの勢いを受けて初の全英1位を獲得したが現在の本国における評価は3rd「All Mod Cons」から前作「Sound Affects」あたりまでと比べるとやや微妙のようだ。このアルバムのリリースまもなくして解散したこともあるだろうが多分彼らが蛇蝎のように嫌うスタイル・カウンシルっぽさが既に現れ始めているからというのも大きそうだ。しかしスタカンが好きな人にとっては多分本作が一番とっつきやすいジャムのアルバムである。モータウン風味の「Town Called Malice」はもちろんのこと、「Precious」などはスタカンの「Internationalists」を彷彿とさせるし、ブルース・フォクストンのファンキーなベースが冴えるインスト「Circus」、ラテン風味の「The Planner's Dream Goes Wrong」など様々なジャンルに影響を受けたバラエティーに富んだ楽曲が揃っている。一方で「Running On The Spot」「Carnation」のようなジャムらしい真っすぐでキャッチーな曲も健在で、やはりジャムとスタカンの橋渡し的な位置づけのアルバムと言っていいと思う。ジャムを解散させた理由は当時ポール・ウェラーがやりたかったタイプの音楽に他のメンバーが(演奏能力的に)ついていけなくなったから、と言われているが本作を聴く限りそこまで気にならない。むしろファンやメディアの期待する「ジャム的なもの」が既にガッチリ確立されてしまっていて、彼が新たにやろうとしていた音楽がジャムという既存の(かつ特定のイメージを持つ)フォーマットの中でやるのは潔くない、という判断だったんじゃないだろうか。その辺がウェラーらしい潔癖さともいえるし不器用さともいえるが、後に彼がスタイル・カウンシルで当時流行りのハウス・ミュージックを丸々アルバムの中でやろうとしてレコード会社に却下されてそれがスタカンの解散を引き起こしたことを思えば人気絶頂のカッコいいイメージのままジャムを解散させたのはむしろ良い判断だったと言わざるを得ない。しかし既に40年以上にわたる音楽キャリアの最初の数年間ばかりがいまだに話題にされる状況というのは本人的にはどう思ってるんだろうか。ついこの前も新譜を出したばかりのポール・ウェラーがインタビューで「ジャムが再結成すると思うなんてバカか?」とキレてたようだけど、いまだにファンやメディアからジャムを引き合いに出されることはソロアーティストとしての自分のキャリアを全否定されているようで面白くないんだと思う(その割に自分のライブでジャム時代の曲を演るじゃんかというツッコミは置いておくとしても)。先日私がツイッターで実施したアンケートもジャムやスタカンに比べてソロが一番いいという人が有意に少なかったもんな。理由は色々あると思うが一言で言って色んな意味でソロ作品は「渋すぎる」んだと思う。特に後追いでジャムやスタカンのファンになった若い世代のファンだとスタカンの面影のある1stはともかくそれ以降の作品群の米国南部音楽に影響を受けた泥臭くも渋いカッコよさがピンと来ないんじゃないだろうか。前回の記事じゃないけど私も初めて「Wild Wood」を聴いたとき「何でそっちに行っちゃうんだよ」って思ったからね。でもやっぱりポール・ウェラーは現在進行形でカッコいいと思うよ。