sleepflower音盤雑記

洋楽CDについてきわめて主観的に語るブログ。

「Revolver」The Beatles(1966)

私はあまりオンタイムでなかった時代のロックの名盤を遡って聴くことをしないタイプなのだけれども、このビートルズの「Revolver」はそんな数少ない名盤の一つである。私が本格的に洋楽にハマるちょうど1年前の小学5年生の時にクリスマスプレゼントにジョン・レノンの「Double Fantasy」を買ってほしいと親に頼んだのが、何故かビートルズの「Revolver」になったのだった。「Double Fantasy」が売り切れていたのか、ジャケットが小学生にはふさわしくないと思われたのか(笑)、あるいはジャケットにオノ・ヨーコが写っていたのが親的に気に入らなかったのか(笑)真相はいまだに謎である。それまでのアルバムとは違いメンバーの顔写真でなくアーティスティックな肖像画のジャケットからしてそれまで私が父や叔父から断片的に教えてもらった「アイドル」のビートルズのイメージとはだいぶ違うなと思ったものである。当時メンバーが傾倒していたLSDインド哲学サイケデリック・ロックの影響がふんだんに盛り込まれた、実験的な要素に溢れたアルバムと言われていて、実際ジョージ・ハリソンの「Love You To」などその典型と言える曲もあるのだけれど、この他にもストリングスを取り入れた「Eleanor Rigby」やコミカルで楽しい諧謔に溢れた「Yellow Submarine」や「Got to Get You Into My Life」のようなファンキーでR&B色の強い曲など実に様々なスタイルをカバーしているアルバムだと思う。しかしハイライトはある意味このアルバムを象徴すると言える最後の「Tomorrow Never Knows」で、そのLSDのトリップ感覚を再現したような、何だか狂気というか「向こう側」に行っちゃってるみたいな非現実的な世界観に小学生ながら衝撃を受けたものである。「みんな凄い凄いというビートルズだけどやっぱりスゲー」と思ったものだ。私の音楽的嗜好に多大な影響を与えたアルバムの一つであり、後に80年代リヴァプール・ネオサイケやマッドチェスター等サイケデリックロックに影響されたバンドに夢中になる下地を作ったアルバムじゃないかと思っている。

Revolver

Revolver

 

 私はビートルズに物凄く詳しいわけではないので「Revolver」が日本のビートルズファンの間でどれぐらいの人気度なのかはわからない。何となくビートルズを聴きたい人に勧める「最初の一枚」ではないという気がしている。一般的な知名度はこの前後の「Rubber Soul」と「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」の方がきっと上だろう。しかし収録曲の多くが下の世代の英国オルタナティブ・インディーロックのバンドやアーティストの作品に多大な影響を及ぼしてる点で、本作は英国ロック史の中でもトップクラス級に重要な位置を占めるアルバムではないかと思っている。冒頭曲の「Taxman」一つとっても後のジャム(The Jam)の「Start」、ライド(Ride)の「Seagull」やマンサン(Mansun)の「Taxloss」への影響は明らかだし「Tomorrow Never Knows」もケミカル・ブラザーズの「Setting Sun」はじめ多数のカヴァーやサンプリングが存在する。本作で本格的に取り組んだインド音楽とロックの融合は後のクーラ・シェイカーに影響を与えたのは言うまでもないだろう。かように革新的なアルバムと言ってもいい本作なのだけれど、一方で「Here, There and Everywhere」「Good Day Sunshine」「For No One」のようにポール・マッカートニーが中心の曲はどれもポップで美しいメロディーに溢れてて聴いててほっこりするものが多く、実験的な曲群とのバランスが絶妙なのもこのアルバムのマジックと言えるかもしれない。